IT 導入の企画における投資効果の検討

平成29年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問1「IT 導入の企画における投資効果の検討」についてである。

問題文

企業が経営戦略の実現を目指して,IT 導入の企画において投資効果を検討する場合,コスト削減,効率化だけでなく,ビジネスの発展,ビジネスの継続性などにも着目する必要がある。IT 導入の企画では,IT 導入によって実現されるビジネスモデル・業務プロセスを目指すべき姿として描き,IT 導入による社会,経営への貢献内容を重視して,例えば,次のように投資効果を検討する。

  • IoT,ビッグデータ,AI などの最新の IT の活用による業務革新を経営戦略とし,売上げ,サービスの向上などを目的とする IT 導入の企画の場合,効果を評価する KPI とその目標値を明らかにし,投資効果を検討する。
  • 商品・サービスの長期にわたる安全かつ持続的な供給を経営戦略とし,IT の性能・信頼性の向上,情報セキュリティの強化などを目的とする IT 導入の企画の場合,システム停止,システム障害による社会,経営へのインパクトを推定し,効果を評価する KPI とその目標値を明らかにし,投資効果を検討する。

IT ストラテジストは,IT 導入の企画として,IT 導入によって実現されるビジネスモデル・業務プロセス,IT 導入の対象領域・機能・性能などと投資効果を明確にしなければならない。また,期待する投資効果を得るために,組織・業務の見直し,新しいルール作り,推進体制作り,粘り強い普及・定着活動の推進なども必要であり,IT 導入の企画の中でそれらを事業部門に提案し,共同で検討することが重要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった経営戦略の実現を目指した IT 導入の企画において,事業概要,経営戦略,IT 導入の目的について,事業特性とともに 800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた目的の実現に向けて,あなたはどのような IT 導入の企画をしたか。また,ビジネスの発展,ビジネスの継続性などに着目した投資効果の検討として,あなたが重要と考え,工夫したことは何か。効果を評価する KPI とその目標値を明らかにして,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた IT 導入の企画において,期待する投資効果を得るために,あなたは事業部門にどのようなことを提案し,それに対する評価はどうであったか。評価を受けて改善したこととともに 600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 事業概要と経営戦略,IT導入の目的

1.1 事業概要と経営戦略

ある地方において,発電所で発電した電気を家庭や企業まで運ぶ送配電事業を営むA社の事業部門の一つである送配電部門で,IT導入の企画を行った事例について述べる。私は送配電部門のIT戦略を担うチームの担当者として,IT導入の企画に携わった。

A社の経営戦略は,デジタル技術を活用した業務の効率化とコストダウンを実現し,電気事業の経営基盤を強化することである。

1.2 IT導入の目的

A社の送配電部門では,2000年代前半に構築された基幹システムとそれ以降構築されたサブシステムにより送配電設備の保全業務を行っている。

基幹システム構築時,紙媒体の書類を主とした業務を行っていたため,基幹システムも紙媒体を前提として構築されている。そのため,今日においても基幹システムを使う業務においてペーパーレス化が進んでおらず,分散勤務など働き方改革の支障となっている。

基幹システムとサブシステムとの間のシステム連携が不十分であるため,基幹システムとサブシステムにデータを二重入力したり,同じようなデータを二重で管理しており,業務負担となっている。また,二重入力・二重管理の場合,人為的ミスの可能性があり,業務品質が損なわれるおそれがある。

さらに,設備保全に関わるデータは,基幹システムとサブシステムに散在している。それ以外にも,紙媒体でしか管理できていない設備保全のデータもある。これらのデータを活用した検討を行う場合,そのデータを統合する作業に大変な労力をかけている。

これらの課題を解決するため,基幹システムとサブシステムの刷新を行うことがIT導入の目的である。

第2章 IT 導入の企画,効率化効果検討,ビジネスの発展

2.1 IT導入の企画

ペーパーレス化,二重入力・二重管理を削減,データベース一元化をコンセプトにした送配電設備の保全に関わる基幹システムの再構築を行う。

基幹システムの再構築により,業務効率化を実現する。また,設備に関するデータベースを一元化し,そのデータを活用することで,設備保全の業務(点検や設備更新の頻度など)を見直し,コストを低減することを目指す。

2.2 投資効果検討時の工夫

基幹システム再構築前の業務フローと再構築後の業務フローを比較し,効率化できる業務時間を算定した。このように効率化効果を算定することで,業務フローごとに効率化効果を評価するKPIを設定することができる。例えば,設備の巡視業務において,再構築前はX時間,再構築後はY時間であれば,効率化効果は(X-Y)時間となり,これを設備の巡視業務効率化のKPIとして設定できる。

基幹システム再構築により期待できる効率化効果は大きいものの,再構築費用・運用費用と比較すると,投資費用を回収するまで10年以上必要であった。基幹システム再構築は,経営戦略の根幹に位置づけられており,これを後押しするよう投資費用の回収を短く見せる工夫を行った。

基幹システム再構築の費用を業務効率化に資する費用と送配電事業を営む上で欠かすことのできない費用(ビジネスの継続に不可欠な機能)に分解した。投資効果は再構築費用の業務効率化分と業務効率化効果を比較することで,投資効果を回収まで10年未満と示すことができた。

投資効果の回収を短く見せることで,経営層が基幹システム再構築を了承しやすくした。

2.3 ビジネスの発展

基幹システム再構築により効率化を実現したリソース(人員)は削減するのではなく,ビジネスの発展に活用することにした。

効率化で創出された時間を活用し,さらなる業務効率化を実現したり,新規事業の企画することが可能となる。そこで実現した業務効率化時間や新規事業の件数も効果を評価するKPIとした。

第3章 事業部門への進言と評価,改善したこと

3.1 事業部門への進言と評価

送配電事業部門には,送電分野,変電分野,通信分野がある。

基幹システム再構築の検討を行っているとき,各分野の業務フローや帳票類は類似していることがわかった。各分野ごとに業務フローを実現する機能開発や帳票類の機能開発を行う場合,開発費用の増加につながるため,各分野ごとの業務フローや帳票類を共通化することを事業部門に提言した。

各分野の業務フローや帳票類は,過去からの積み重ねでできていた。開発費用を低減するという理由だけでは納得できない。業務フローや帳票類を共通化することで得られるメリットを示してほしいと評価した。

3.2 評価を受けて改善したこと

各分野の業務フローや帳票類すべてにおいて,各分野の主管チームと必要性を再度評価することにした。その際,業務フローや帳票類ができた過去の経緯も調査した。業務フローや帳票類を個別に開発するのに必要な費用と個別化することで得られる効果を洗い出した。その結果,個別に開発しても投資効果がほとんど得られないことがわかった。また,過去の経緯も基幹システム再構築することで解消できることがわかった。

一方,送電・変電・通信分野の人員の多能工化が経営層から求められている。業務フローや帳票類を統合しておくことで,基本的な業務の業務フローや帳票類は統一でき,他の分野に参入するハードルを下げることができるメリットもあることを追加で提言した。

これらの改善により,各分野の主管チームも納得した上で,各分野の業務フローと帳票類の統合を実現することができた。

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