IT 導入の企画における業務分析

平成28年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問1「IT 導入の企画における業務分析」についてである。

問題文

事業全体の業務の効率向上・スピードアップ,新規事業による売上拡大などの事業目標の達成に向けて,IT ストラテジストが事業部門とともに業務分析を行い,真の問題を発見してその原因を究明し,問題の解決策として IT 導入を企画することが増えている。特に,経営の要求に適時適切に応えられない IT,標準化されていない IT などが業務のボトルネックになっていたり,モバイルコンピューティング,IoT などの新しい IT の活用によって業務改革,新規事業が実現できたりする場合,IT ストラテジストへの期待は大きい。

業務分析では,事業目標を理解し,まず,業務内容,業務プロセス,IT 活用などの現状を調査して問題を発見する。次に,個々の問題を関連付けたり,顕在化していない問題を探ったり,経営の視点で業務全体をふかんしたりして真の問題を発見し,その原因を究明する。この過程では,例えば次のようなことが重要である。

  • 業務フロー,業務機能関連図などを作成して業務を可視化する。
  • MECE (Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive),バリューチェーン分析などの手法を利用して全体を網羅する。
  • ベンチマーク,他社の成功事例などと客観的に比較検討する。

問題の解決策の策定では,IT ストラテジストは IT 導入を企画し,適用する IT の機能,性能を明確にすることが必要である。その上で,投資規模,IT の導入範囲などを検討し,事業部門に対して IT 導入の投資効果を説明する必要がある。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった,事業目標の達成に向けた IT 導入の企画における業務分析について,事業目標の概要,業務分析が必要になった背景を事業特性とともに,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた業務分析において,どのような手段,工夫で真の問題を発見し,その原因を究明したか。また,問題の解決策としてどのような機能,性能の IT 導入を企画したか。800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた IT 導入について,その投資効果をどのように事業部門に説明したか。また,今後,改善すべきことは何か。600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 事業目標の概要,業務分析が必要になった背景

1.1 事業目標の概要

送配電事業を営むA社の事業部門において,送電・変電・通信分野の設備保全の基幹システムを再構築する企画を立案したときの事例について述べる。

A社の事業目標は,低廉な託送料金で電力を安定的に供給することである。事業目標を達成するため,送配電設備の保全を効率的に実施していく必要がある。A社では業務を効率化するため業務のデジタル化,戦略的な経営を行うため設備に関するデータ活用を掲げている。

1.2 業務分析が必要になった背景

A社の事業目標を達成するため,設備保全の基幹システムの再構築のプロジェクトが発足し,私もそのプロジェクトメンバーとして参加した。そのプロジェクトでは,現状の設備保全システムの課題を把握することにした。

A社の設備保全の基幹システムは,2000年代前半に構築されていた。そのシステムは紙帳票の出力を前提とした業務フローを採用しており,業務効率化や在宅勤務など働き方改革の支障となっている。

また,高度成長に応じて整備された送配電設備は高経年化している。一方,近年,電力の需要は伸びていない。そのような背景から,限られたリソース(ヒト・モノ・カネ)で設備修繕工事を計画的に行っていくことが求められているが,その計画立案には設備に関するデータが必要である。しかし,基幹システム以外のサブシステムに保存されているデータやデジタルデータ化されていない紙媒体の記録が存在し,データを集めるために大変な労力をかけていた。

設備保全の基幹システムを再構築することで,上記の課題を解決できるように業務分析を行うこととした。

第2章 業務分析とIT導入の企画

2.1 業務分析の手段

業務分析を行うため,現状の業務フロー,業務機能関連図を作成して業務を可視化した。業務の可視化においては,社内ルールと照らし合わせたり,業務を行う第一線職場へのヒアリングを通して,業務全体を網羅していることを確認した。

一方,送配電事業を行っている他社の設備保全システムの調査を実施した。他社の設備保全システムでは,ペーパーレス化とデータベースの一元化を実現しているものもあった。そのシステムの業務と現状の業務を比較することで,問題を発見した。

業務の問題を解決し,事業目標を達成するため,ワークフローシステム導入,モバイルコンピュータ活用などの新しいITの活用が必要であることがわかった。

2.2 問題の解決策としての機能

(1)ワークフローシステム

ワークフローシステムを導入し,業務をシステム上で行っていくことで,多くの紙帳票を削減できる。また,在宅勤務など事務所へ出向かなくても業務を行えるようになる。

また,紙帳票の場合,承認後の帳票はファイルに保管するという作業が必要であったが,ワークフローシステムで承認したデータは,システムで保存されるため,ファイリングの作業が不要となる。

(2)モバイルコンピュータ

巡視や点検などの記録は紙媒体へ書き込んでいた。モバイルコンピュータを活用し,巡視や点検の記録をモバイルコンピュータに入力することで,設備に関するデータ化をデジタルデータとして扱えるようにした。

また,モバイルコンピュータのユースケースを想定すると,送電分野ではオフラインでの使用が想定されるため,オフラインでも使用できる機能を設けた。

(3)問題の解決策としての性能

設備保全の基幹システムを再構築すると,すべての業務をシステム上で行う必要がある。これまでは,一部の従業員だけがシステムにアクセスしていたが,再構築後は全ての従業員がシステムにアクセスすることになる。全従業員がアクセスしてもシステムが円滑に動作するような性能を要求することにした。

第3章 事業部門への説明と今後の改善

3.1 事業部門への説明

事業部門に投資効果を説明する前段として,設備保全の基幹システム再構築により,業務がどのように変わるのかを説明した。

基幹システムの再構築においては,業務を効率化する機能だけでなく,設備保全業務を行うために必要不可欠な機能もある。そのため,投資効果の説明においては業務効率化に資する開発費用と効率化効果で比較して提示した。

一方,効率化できる業務量は,個々の業務効率化の積み上げであり,提示した数字どおりに要員を減らせるわけではないことも説明した。事業部門から,基幹システム再構築により効率化できたリソースを有効に活用することを求められた。

3.2 今後,改善すべきこと

事業部門からの要望に応えるため,基幹システム再構築により,効率化できたリソースは「さらなる業務効率化」や「新規事業など新しい価値創造」へ活用する必要がある。

基幹システム再構築により効率化できた業務量をKPIとしていた。それに加え,その効率化して創出した時間で生み出した「さらなる業務効率化」や「新規事業など新しい価値創造」もKPIとして設定する必要がある。

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