事業目標の達成を目指す IT 戦略の策定

平成30年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問1「事業目標の達成を目指す IT 戦略の策定」についてである。

問題文

IT ストラテジストは,事業目標の達成を目指して IT 戦略を策定する。IT 戦略の策定に当たっては,実現すべきビジネスモデル又はビジネスプロセスに向けて,有効な IT,IT 導入プロセス,推進体制などを検討し,事業への貢献を明らかにする。

IT 戦略の策定に関する取組みの例としては,次のようなことが挙げられる。

  • 顧客満足度の向上による市場シェアの拡大を事業目標にして,AI,IoT,ビッグデータなどを活用した顧客個別サービスを提供する場合,システムソリューション,試験導入,データ解析に優れた人材の育成などを検討する。
  • グローバルマーケットでの売上げの大幅な増大を事業目標にして,生産・販売・物流の業務プロセスの革新によるグローバルサプライチェーンを実現する場合,グローバル IT 基盤の整備,業務システムの刷新や新規導入,グローバル対応のための運用体制作りなどを検討する。

IT ストラテジストは,経営層に対して,策定した IT 戦略が事業目標の達成に貢献することを説明し,理解を得なければならない。また,策定した IT 戦略を実行して事業目標を達成するために,ヒト・モノ・カネの経営資源の最適な配分を進言したり,現状の組織・業務手順などの見直しを進言したりすることが重要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった IT 戦略の策定において,事業概要,事業目標,実現すべきビジネスモデル又はビジネスプロセスについて,事業特性とともに 800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた事業目標の達成を目指して,あなたはどのような IT 戦略を策定したか。有効な IT,IT 導入プロセス,推進体制,事業目標達成への貢献内容などについて,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた IT 戦略の実現のために,あなたは経営層にどのようなことを進言し,どのような評価を受けたか。評価を受けて考慮したこととともに 600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 事業概要,事業目標,実現すべきビジネスプロセス

1.1 事業概要と事業目標

 送配電事業を営むA社において,事業部門の担当者としてIT戦略策定に携わった事例について述べる。

 送配電事業は,発電所から電気を使うお客さまへ電力を供給する事業である。電力は生活に欠かすことのできないものであることから,事業目標として,低廉な価格で電力を安定供給することを掲げている。

 低廉な価格を実現するため,電力を供給するために必要な設備の保全業務の効率化に取り組んでいるが,他業界に比べるとデジタル技術の導入は遅れている。

 また,高度経済成長に応じて拡充された送配電設備は高経年化しており,設備の更新が今後ピークを迎える。電力の需要が伸びない中,送配電設備を戦略的・効率的に更新することが必要である。

1.2 実現すべきビジネスプロセス

 送配電設備の保全業務において,人が巡視や点検をする。これまで,巡視や点検において情報(設備に関する様々な項目の良否判定や数値記録)は紙媒体に記録している。設備に関する情報を分析することで,保全業務に関わる戦略を見出せる可能性がある。一方,紙媒体に記録した情報はアナログであるため,設備に関する情報分析のためには,まずコンピュータで扱えるようデジタルデータ化する必要がある。

 デジタルデータ化の負担が大きいため,データを活用した送配電設備の戦略的・効率的な更新計画の策定には至っていない。そのため,実現すべきビジネスプロセスは,業務のデジタル化とデジタルデータを活用した送配電設備の戦略的・効率的な更新計画の策定とした。

第2章 事業目標の達成を目指したIT戦略

2.1 IT戦略

 送配電設備保全の基幹システムの再構築を行い,デジタル化とデータベース一元化を実現する。デジタル化による効率化とデータを活用した設備保全を行うことで,事業目標である低廉な料金で電力を安定供給することを深化させる。

2.2 有効なIT

 現在,使用している設備保全の基幹システムの改修,他の設備保全のパッケージシステムの導入を比較し,有効なITを選択する必要がある。

 比較検討においては,開発・運用コスト,開発工期,保守体制を比較を行い,既存の設備保全システム改修を選択した。

 また,巡視や点検においては,紙媒体で記録を行っていたが,それをデジタル媒体に置きかえることで,設備保全に関わるデータをデジタルで蓄積することができる。巡視や点検でのユースケースを想定し,タブレット端末を採用することにした。それにより,巡視や点検を行うユーザの負担を増やすことなく,設備保全のデジタルデータ化を実現できる。

2.3 IT導入プロセス

 設備保全の基幹システムは,全従業員が使用するシステムであるため,わかりやすい画面設計とすることを心掛けた。ユーザの意見を取り入れ,画面作成のガイドラインを策定することで,統一的かつユーザフレンドリーな画面作成を行った。

 また,既存システムの改修を選択したため,他パッケージを導入するよりも,教育等の導入コストを低減することができた。

2.4 推進体制

 設備保全システム改修で開発する機能数は多いため,開発においては設備の保全と工事の2つの領域に分割し,開発を推進することにした。各領域ごとに検討を進めることで,スピーディーに開発を進めることができた。
また,設備保全の第一線で働く従業員に開発中のシステムのレビューに参加してもらうことで,ユーザの意見を開発内容に取り入れることができた。

2.5 事業目標への貢献

 設備保全の基幹システムを再構築することで,データベースの一元化と業務の効率化を達成した。データベースの一元化により,戦略的かつ効率的な設備更新計画を策定することができ,電力の安定供給レベルを維持しながらもコストを下げることができた。業務の効率化によるコスト削減により,事業目標である低廉な料金に貢献することができた。

第3章 経営層への進言と評価

3.1 経営層への進言と評価

 設備保全の基幹システムの再構築により,業務のデジタル化とデータベースを一元化することを経営層に進言した。

 設備保全のあるべき姿を描き,基幹システムの刷新による業務のデジタル化とデータベース一元化計画を策定したことについて高い評価を得た。一方,基幹システム全面改修は,A社で経験したことのない規模となるため,開発プロジェクトが計画通り進むか懸念を持たれた。開発を進めるにあたっては,開発の優先順位をつけて進め,刷新後の基幹システムが運用開始する時期が遅れないように配慮すべきと指示があった。

 また,設備に関するデータベースを一元化しても,そのデータを活用した設備更新計画を立案できる人材はいるのか,という懸念も示された。一元化したデータベースが宝の持ち腐れにならないよう,データ解析に優れた人材の育成しておくよう指示があった。

3.2 評価を受けて考慮したこと

 設備保全の基幹システムの刷新において開発する新機能について,開発コストとそれを実現することによる効率化効果を評価した。

 開発コストと効率化効果の2軸による評価を行い,開発する新機能の優先順位を見える化し,経営層に報告し了解を得た。開発の優先順位は開発プロジェクトメンバーにも共有することで,運用開始するまで必ず開発する機能については,遅れることなく開発することができた。

 データ解析に優れた人材の育成については,開発プロジェクトとは別に人材の育成計画を策定した。データ解析人材がもつべきスキルを明らかにし,そのスキルを得られる講座の選定を行った。それにより,基幹システムの刷新までにデータ解析に優れた人材の育成を行うことができた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です