個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整

令和3年度 春期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問2「個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整」についてである。

問題文

事業目標の達成に向けて,事業戦略に掲げられている変革を実現するために,IT ストラテジストは,事業部門,IT 部門,本社部門,IT 子会社などのステークホルダとともに,個別システム化構想を策定する。

IT ストラテジストは,あるべき業務及びシステム,投資効果,開発スケジュールなどについての試案を検討し,各ステークホルダと試案について協議して,個別システム化構想案を取りまとめる。しかし,各ステークホルダの立場の違いから,個別システム化構想案の内容に対して意見の相違が発生することがある。各ステークホルダから協力を得て,事業戦略と整合性の取れた個別システム化構想として完成させるためには,IT ストラテジストが構想案に対して反対意見や疑義をもつステークホルダへの説得を行った上で,意見の調整を行い,構想案に反映して内容を確定することが重要である。例えば,次のような調整をすることがある。

  • 実現する業務やシステム化機能の優先順位に関する事業部門からの反対意見に対しては,業務負担軽減のための施策や,サービスレベルの見直しを提案する。
  • 人的リソース不足に懸念を示す IT 子会社に対しては,開発スケジュールを事業部門,IT 部門とともに見直して,IT 子会社の負荷調整を図る。
  • 投資効果や費用リスクを懸念する本社部門に対しては,段階的な導入による効果創出の早期化や,SaaS 活用などによる初期投資コストの抑制案を提案する。

さらに,IT ストラテジストは,内容を確定した個別システム化構想について,事業目標達成への寄与のために,事業戦略への影響,投資効果などを経営層に説明し,承認を得る必要がある。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった個別システム化構想の策定において,背景となった事業目標,事業戦略に掲げられている変革の概要,関係するステークホルダについて,業務特性とともに 800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたステークホルダについて,個別システム化構想案に対してどのような意見の相違があり,あなたはどのように意見を調整したか。個別システム化構想案の概要と意見の調整で工夫したこととともに,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた意見の調整結果を反映した個別システム化構想について,経営層からどのような評価を受けたか。評価を受けてあなたが改善したこととともに,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 個別システム化構想の策定

設備を運転・保守するために必要な図面の電子データを管理するシステム(以降,図面管理システム)の構想を策定したことについて述べる。

1.1 背景となった事業目標

図面管理システム構想を策定した会社は,一般送配電事業を営んでいる。低廉な料金で電力を安定的に供給する事業の目標として,コスト削減による経営効率化を掲げている。

1.2 事業戦略に掲げられている変革の概要

一般送配電事業は従来より効率化を進めてきたものの,業務のデジタル化が遅れており,紙媒体を中心とした業務が主である。紙文化から脱却し,デジタル化による業務効率化を行うことが,事業の戦略として掲げられている変革の概要である。

1.3 関係するステークホルダ,業務特性

一般送配電事業では,電力を安定的に供給するため,送配電設備の改修や修繕などの工事を計画的に実施している。そのような工事は,一般送配電会社のステークホルダである協力会社に請負発注している。一般送配電会社の工事を受注した協力会社は,工事施工に必要な図面を一般送配電会社より借用し,工事が終われば必要な図面の修正を行って,一般送配電会社に返却する。

図面のほとんどは,紙媒体で管理されており,図面の借用・返却のためには協力会社から一般送配電会社まで出向する必要がある。また,紙媒体の図面の修正は手書きで行うため,非常に手間であった。

これらの課題を解決し,コスト削減による経営効率化を実現するため,図面管理システム構想を策定した。

第2章 ステークホルダとの意見調整

2.1 ステークホルダからの意見

ステークホルダである協力会社も図面を紙媒体で管理することは非効率であるを感じており,システム構想策定前からも図面の電子化を要望していた。

また,ステークホルダで図面を新規に作成する場合は,CAD ソフトウェアや Excel を使用しており,その CAD ファイルや Excel ファイルを共有できれば図面修正が容易になるという意見もあった。

一方,CAD ソフトウェアの違いにより,扱える CAD ファイルが異なるため,CAD ファイル共有に向けて,CAD ソフトウェアを統一すべきという意見もあった。

2.2 意見の調整

CAD ファイルの共有が可能であるか評価するため,協力会社が使用している CAD ソフトウェアを調査した。協力会社は 11 社あるが,CAD ソフトウェアにばらつきがあることが判明した。協力会社で使っている会社が多い CAD ソフトウェアに統一できないか,それ以外の CAD ソフトウェアを使用している会社に打診したが,別の CAD ソフトウェアに移行することは,導入教育にコストがかかること,これまで作図した CAD 図面を変換する必要があるなど,直ちに実施することは困難であった。

一方,Excel については協力会社全てが使用しており,Excel ファイルを共有することは可能かつ容易であることが確認できた。

以上の調査結果を協力会社に説明し,CAD ソフトウェアの統一は困難であることを理解してもらったうえで,CAD ソフトウェアの統一は行わないこととした。

一方,図面の元データである CAD ファイルや Excel ファイルがあれば,図面修正が効率的に行えるため,図面の元データを共有できるような仕組みを取り入れることにした。

2.3 個別システム化構想案の概要

図面管理システムでは,図面を表示するためのPDF,図面修正を効率的に行うためPDFの元データ(CAD や Excel 形式)をシステムに登録できるようにした。

第3章 経営層からの評価と改善

3.1 経営層からの評価

図面管理システムの構想は,社内の効率化だけでなく,ステークホルダである協力会社の効率化も実現できることを経営層に対して説明した。労働人口が減っていく中,社内の効率化だけでなく,ステークホルダの効率化も進めていく必要があると経営層は認識しており,その点については高く評価された。

紙媒体で図面を管理していたときは,図面の借用・返却は協力会社の負担であったが,図面をデジタル化することで,その手間を減らせるはず,と指摘を受けた。

セキュリティに配慮した上で,協力会社からも図面管理システムにアクセスし,システムに登録されている図面の借用・返却ができるような仕組みを検討するよう指示があった。

3.2 評価を受けて改善したこと

図面管理システムで管理する図面は,設備に関する情報も含まれるため,社内ネットワーク内に構築することにしていた。協力会社が社内ネットワークにアクセスする仕組みができないか,IT 部門と協議した。

リバースプロキシサーバを設置し,社外の協力会社はリバースプロキシサーバを介して社内の図面管理システムにアクセスする仕組みは実現可能であること,また,社内で定めているセキュリティレベルを確保できることが判明した。

リバースプロキシサーバを設置することでシステム構築・運用費用は増加するが,図面の借用・返却を効率化することで得られる省力化の効果が期待でき,投資効果を評価した。その結果,リバースプロキシサーバ設置の投資は採算が得られることがわかり,図面管理システムの構想にリバースプロキシサーバ設置を追加することにした。

経営層にその旨を説明し,了承されたため図面管理システムを開発することとした。

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