緊急性が高いシステム化要求に対応するための優先順位・スケジュールの策定

平成27年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問1「緊急性が高いシステム化要求に対応するための優先順位・スケジュールの策定」についてである。

問題文

企業は,厳しい競争に勝ち抜くために,新しいチャネルの開拓,市場に対応した組織編成,短いサイクルでの新製品・新サービスの開発などに取り組んでおり,情報システムの全体システム化計画で対象とした業務,組織,製品・サービスなどは変化し続けている。一方で,モバイルコンピューティング,クラウドコンピューティングなどの新しい IT の活用が広がり,それらが今までにない付加価値を生んだり,コスト削減を実現したりして,事業に貢献する事例が増加している。これらを背景に,情報システムの導入・改修に関して緊急性が高いシステム化要求が,事業部門から継続的に挙げられている。

緊急性が高いシステム化要求への対応に当たっては,まず,要求が事業戦略に適合することを確認し,システム化範囲を定め,要求をどのように実現すべきかを明確にする。次に,緊急性が高いシステム化要求への対応を,全体システム化計画の中でどのように位置付けるかを検討し,優先順位・スケジュールを策定する。その際,例えば次のような観点での検討が重要である。

  • 情報システム基盤の整備,アプリケーションシステムの統合,業務の見直しなどによって全体の投資削減又は相乗効果が期待できる場合,これらの実施を含めて検討する。
  • 計画中又は進行中の個々の情報システムの導入・改修への影響が最小限にとどまるように検討する。

IT ストラテジストは,緊急性が高いシステム化要求への対応に当たり,事業部門に対して,策定した優先順位・スケジュールによって,情報システムの導入・改修が全体システム化計画において最も効率的・効果的に進められることを説明し,承認を得なければならない。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが事業部門から受けた情報システムの導入・改修に関する緊急性が高いシステム化要求は何か。要求の背景,事業の特性とともに,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた要求への対応に当たり,どのような観点で検討し,どのような優先順位・スケジュールを策定したか。特に重要と考えたことを明確にして,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた優先順位・スケジュールを事業部門にどのように説明し,その説明した内容に対して事業部門からどのような評価を受けたか。その評価を受けてあなたが改善したこと,又は今後,改善すべきことは何か。600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 事業部門からの受けた緊急性が高いシステム化要求

1.1 システム化要求の背景

 電力会社の情報システム部の担当者として,電力システム改革に対応するため,事業部門から受けた緊急性の高いシステム化要求の事例について述べる。

 2015年,電気事業法が改正され,電力システム改革の第3弾として2020年4月に送配電事業を発電事業や小売電気事業と法的に分離することになっている。送配電部門を法的に分離する目的は,送配電部門の中立性確保である。

 電力会社の法的分離は,初めてのことであり,情報システムの導入・改修にどれだけのインパクトがあるか事前に想定することは非常に困難であった。

1.2 事業の特性

 法的分離では,送配電事業の中立性を確保するため,送配電事業部が託送業務を通じて知り得た情報の目的外利用が禁止される。これまで送配電事業部が使用している情報システムの中には,発電事業や小売電気事業を行っている部門と共用しているものもある。

 一方,送配電事業は,発電事業や小売電気事業と一体となって運営される電力一貫体制となっている。法的分離後においても,行為規制に抵触しない範囲で,一体的な業務運営により効率的に事業を行う必要がある。

 法的分離するにあたっては,送配電事業の中立性を確保しつつ,効率的な業務運営を堅持することが情報システムの導入・改修に求められる。また,法的分離は2020年4月と決まっているため,それまでに必要な情報システムの導入・改修を行う必要がある。

 万一,情報システムの導入・改修が遅れた場合,電力の安定供給に支障となる可能性もあり,確度の高いスケジュール策定が求められる。

第2章 システム化要求の優先順位・スケジュール策定

2.1 システム化要求への対応に当たり検討した観点

 システム化要求への対応に当たり,まず,送配電事業の法的分離に必要な情報システムの導入・改修を漏れなく洗い出すことにした。洗い出しは,情報システム部だけでなく,送配電事業部門,発電事業部門,小売電気事業部門が一体となって行った。洗い出しを行った時点で,情報システムの導入・改修を経営会議で示した。経営会議においては,事業戦略として,電力システム改革に適応する,を掲げており,法的分離に必要な情報システムの導入・改修の必達事項として指示された。

 電力システム改革に適応するため,優先度が最も高い情報システムの導入・改修は,それを行わなければ,法令違反となるものとした。また,導入・改修は2020年4月まで確実に完了できるようスケジュールを策定することとした。

 次に優先順位が高い情報システムの導入・改修は,それを行わなければ,著しく業務の負担が増えるものとした。

 優先順位が低い情報システムの導入・改修は,それを行わなければ,業務の負担は増えるが,マンパワーでカバーできるものとした。

 業務を効率的に行うために必要な情報システムの導入・改修は,物量が大きく,それに対応できるリソースがないため,2020年4月まで間に合わないことが判明した。

2.2 重要と考えたこと

 優先順位が高い情報システムの導入・改修は,2020年4月まで確実に完了できるようスケジュールを策定するが,計画中又は進行中の個々の情報システムの導入・改修への影響が最小限にとどまるように配慮した。

 また,業務効率化のための情報システムの導入・改修については,情報システム基盤の整備,アプリケーションシステムの統合,業務の見直しによって全体の投資削減又は相乗効果が期待できるため,これらの実施を含めて検討した。

 この結果,業務効率化のための情報システムの導入・改修について,2020年4月まで実施するものと2020年4月以降に実施するものを選別することができた。

第3章 事業部門への説明と評価と改善すべきこと

3.1 事業部門への説明と評価

 電力システム改革に対応するためのシステムの導入・改修の計画について,優先順位の考え方を示した上で,スケジュールを提示した。システムの導入・改修については,事業部門と一緒に洗い出しを行い,経営会議でも示していることから過不足なく洗い出されていることは,事業部門も了承している。

 電力システム改革に適応する,という事業戦略があるため,法令違反とならないための情報システムの導入・改修を最優先させることは,事業部門も認識しており,優先順位のつけ方については納得してもらった。

 また,情報システムの導入・改修のスケジュールを策定するに当たり,事業部門が計画中又は進行中の個々の情報システムの導入・改修の一部が延期してしまうことについても了解を得た。

 法的分離により,業務は複雑化するため,事業部門としても効率化に資するシステム改修は必要と考えている。しかし,全体システム化計画において最も効率的・効果的に進められるかについては,事業部門だけでは検討出来ない。

3.2 今後,改善すべきこと

 効率化に資する情報システムの導入・改修については,送配電事業部門と情報システム部門が一体となり,検討していくことにした。

 事業部門の個別最適にとどまらず,全社システム化計画が最適になるよう,発電事業部門や小売電気事業部門とも協議していく必要がある。

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