情報システムの追加開発における業務の見直し

平成22年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問2「情報システムの追加開発における業務の見直し」についてである。

問題文

既存の情報システムが事業の変化に伴う業務の変更に適応できず,業務遂行に問題が発生すると想定される場合,情報システムの全面再構築ではなく,一部を改修したり,新たな機能を追加したりする追加開発を実施することがある。このような場合,追加開発に先立って業務の見直しを行うことで,情報システムの肥大化・複雑化を抑えることができるとともに業務の効率が向上したり,利用者の利便性が向上したり,情報システム運用の効率が向上したりする。

IT ストラテジストは既存の情報システムの制約を考慮しながら,業務と情報システムの問題点を分析し,次のような観点から業務の見直しを進めることが重要である。

  • 業務ルールや業務分担の変更
  • 過剰業務,重複業務,低付加価値業務などの廃止・削減
  • 情報技術の一層の活用による業務の効率向上

情報システムの追加開発における業務の見直しでは,利用者・利用部門が従来の業務・情報システムに執着し,業務の見直しに消極的なことも多い。この点に配慮して IT ストラテジストは,業務の見直しを進めるに当たって,利用者・利用部門の意識改革を進める必要がある。具体的には,現行業務を十分に理解し,全体最適化・コスト最小化の視点から,業務と情報システムの問題点を指摘してその解決策を提示したり,利用者の利便性向上や情報システム運用の効率向上に関して説明したりして,理解・協力を得ることが重要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった情報システムの追加開発の背景と概要について,業務の特性とともに,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた情報システムの追加開発に当たり,あなたはどのような観点で業務の見直しを行い,その結果,何がどのように向上したか。あなたが考慮した既存の情報システムの制約とともに,800 字以上 1,600 字以内で述べよ。

設問ウ

設問イで述べた業務の見直しに当たって,利用者や利用部門の理解・協力を得るために,あなたが特に重要と考えて工夫した点を,600 字以上 1,200 字以内で述べよ。

論文案

第1章 情報システムの追加開発の背景と概要

1.1 情報システムの追加開発の背景

 一般送配電事業を営む会社の事業部門の担当者として,送配電設備の保全システムの追加開発に携わった事例について述べる。

 既存の設備保全システムは2000年代前半に開発され,運用されている。開発当時は,紙媒体の書類が主流であったため,設備保全システムも紙媒体の出力を前提とした業務となっている。昨今,在宅勤務や分散勤務などの働き方改革を進めているが,設備保全システムが紙媒体の出力を前提としていることから,働き方改革の足枷となっている。

 また,設備保全システム開発後に開発されたシステムもあるが,システム連携が不十分であり,設備保全システムと他のシステムに同じ情報を入力するといった重複業務が生じている。さらに,送配電設備に関するデータは,設備保全システムに登録されているデータ以外にも,他システムに登録されているデータ,紙媒体に記録されているデータが存在する。

 送配電設備は,高度成長に応じて整備されており,今後,高経年対策のピークを迎える。そのため,データを活用した戦略的・効率的な設備計画を策定する必要はあるが,データ統合に大きな労力がかかり,データを活用した計画策定には至っていない。

1.2 情報システムの追加開発の概要

 設備保全システムは,SAP PMを採用しているため,前述の課題を解決する機能をアドオン開発で追加する。追加開発のコンセプトは,紙媒体の出力を前提としない業務の実現,他システムを設備保全システムへ統合したり,他システムとの連携を強化すること,送配電設備に関するデータを一元化することである。

第2章 業務の見直しと向上したもの

2.1 業務の見直しを行う観点

 業務の見直しを行うため,送配電設備の保全に関する業務フローを作成した。過剰業務,重複業務,低付加価値業務などの廃止・削減ができないか,という観点で業務フローをチェックし,業務の課題を抽出した。

 また,他システムの機能調査を行い,設備保全システムへの統合可否を検討した。検討においては,他システムと統合することで情報システムの運用向上が実現できるかという観点での検討を行った。

2.2 業務の見直しの結果

 業務の課題を解決するための機能開発により,業務の効率化が見込まれる。課題ごとに効率化できる時間を積み上げたところ,年間20人分の業務量を削減できる。

 システム統合により,統合前のシステム運用に掛かっていた費用(システムベンダーに保守を委託する費用やシステムを稼働させる基盤の費用)を削減することができる。

2.3 既存の情報システムの制約

 設備保全システム(SAP ERP 6.0)は,適当なAPIがないため,他システムとの連携において制約となった。そのため,他システムとの連携要件を整理し,設備保全システムと他システムを連携するための中間サーバを設置することにした。これにより,定周期のバッチ処理により設備保全システムと中間サーバを連携しておくことで,他システムとの連携における業務要件を実現できた。

第3章 利用者や利用部門の理解・協力

3.1 利用者の理解・協力

 利用者に業務と業務システムの問題点を指摘してその解決策を提示した。

 現状の業務では,紙媒体の出力を前提としているが,情報システムの追加開発により,それが解消されることを説明した。それにより,従来は業務を行うためには会社の事務所へ出向することが必要であったが,現場や自宅からでも業務を行うことができ,働き方改革にも寄与することを示した。既存の設備保全システムは,働き方改革の足枷となっていることを利用者も感じていたため,容易に理解を得ることができた。

 また,設備保全システムは日常業務で最も使用されるシステムであるため,利用者の声を聞き,使いやすいインタフェースを実現した。それにより,システムのマニュアルを見なくても,直感的にシステムの操作方法がわかるとの評価を得た。

3.2 利用部門の理解・協力

 利用部門に対しては,情報システムの追加開発により実現できる効率化効果を示し,追加開発のコストは5年で回収できること見込みであることを説明した。情報システムの追加開発を行わなければ,過剰業務,重複業務,低付加価値業務は残ってしまうため,容易に利用部門の理解を得ることができた。

 また,利用部門では設備データを活用した戦略的・効率的な設備計画を策定する必要はあったが,これまではデータ統合などの前処理に労力がかかっており,設備データの活用が進んでいなかった。情報システムの追加開発により,設備データは一元化されるため,利用部門は設備データを活用した検討に注力できると評価を得た。

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