情報システム活用の促進策の立案

平成21年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問2「情報システム活用の促進策の立案」についてである。

問題文

業務の効率向上や意思決定の迅速化などを目的に情報システムの導入を計画し,システム要件どおりに導入したが,活用が進まず,導入の目的を達成できない場合がある。活用が進まない原因として,例えば次のようなことが考えられる。

  • 情報システムの機能を十分に活用するためのノウハウの共有が不十分で,利用者は一部の機能しか使っていない。
  • 利用部門の管理者のリーダシップが足りないので,利用者に情報システムの利用を徹底できない。
  • 正確なデータがタイムリに入力されないので,必要とする情報が必要なときに入手できない。

このような例では,活用を進めるための直接的な対策として,情報システム活用のノウハウに関するトレーニング,管理者の意識改革,データ入力チェックリストの制定などが挙げられる。

しかし,直接的な対策だけでは,活用が進まないことがある。多くの場合,幾つかの原因があって,それらの間に関連があったり,隠れた原因があったりする。したがって,IT ストラテジストは活用が進まない真の原因を分析し,有効な対策を検討する必要がある。その上で,実行手順・対象範囲・期間・体制などを明確にした情報システム活用の促進策を立案しなければならない。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが活用の促進策を立案した情報システムの概要と導入の目的について,事業や業務の特性とともに 800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた情報システムが活用されない真の原因について,あなたの分析の結果を,分析の観点を含めて 800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた分析の結果,あなたは情報システムの導入の目的を達成するために,どのような促進策を立案したか,工夫した点とともに,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 活用の促進策を立案した情報システムの概要と目的

1.1 情報システムの概要

 一般送配電事業を営む会社の事業部門の担当者として,送配電設備の運転・保守に必要な図面を管理する図面管理システムの活用の促進策立案に携わった事例について述べる。

 図面管理システムを導入するまで,送配電事業の設備に関する図面は紙媒体で管理されていた。設備の変更を行う都度,紙媒体の図面の原図を修正し,原図を複製した図面を事務所や設備が設置されている電気所に配布していた。原図の修正や複製図面の差し替え作業は大きな業務負担となっている。

 また設備の変更を協力会社で実施する場合,紙媒体の原図を協力会社に貸出す。設備変更後,協力会社は原図を修正し,原図から複製図面を作成し,原図を返却する。原図は各事業所で管理するため,協力会社は各事業所まで出向して原図の借用・返却する。

 これまで紙媒体で管理していた図面の管理をシステムで実現する。

1.2 情報システムの目的

 図面管理システムの目的は,業務効率化と業務品質向上である。

 図面を電子データで管理することで,事務所や設備が設置されている電気所から図面を見ることができるため,紙媒体の複製図面を事務所や電気所に設置する必要がなくなる。よって,紙媒媒体の複製図面を作成したり,複製図面の差し替えを行う業務は省力化が可能である。

 原図を電子化することで,協力会社へ原図を貸出す場合,原図を管理する事業所まで出向してもらう必要がなくなる。また,協力会社も紙媒体の複製図面を作成する業務を省力化できる。

 過去には,複製図面の差替えが行われず,誤った図面を参照して作業し,トラブルに至った事例があるが,図面を電子化し,図面管理システムで管理することでそのようなことを防ぐことができる。

第2章 情報システムが活用されない真の原因

2.1 分析の観点と結果(事業所)

 図面管理システム導入後,図面管理システムが活用が進んでいないことが判明した。その原因を分析するため,原図を管理する事業所の担当者にヒアリングした。事業所の担当者は,日常業務に追われ,原図を電子化し,図面管理システムに登録する時間がない。また,原図の電子化をいつまで実施すればよいか分からない,とのことだった。さらに,原図を貸出し機能については,全ての原図が電子化されてシステムに登録されていないため,使用できないこともわかった。

 ヒアリングの結果から,特性要因図を作成し,分析を行ったところ,原図の電子化が進んでいないことが真の原因と判断した。

2.2 分析の観点と結果(利用部門の管理者)

 利用部門の管理者にもヒアリングを行った。図面管理システム導入後,利用部門の管理者が行ったことは,図面管理システムが導入されたことを通知したのみであった。

 紙媒体の原図を電子化して図面管理システムに登録することは,事業所一任としており利用部門の管理者は管理していなかった。

第3章 情報システムの促進策

3.1 紙媒体の原図の電子化促進

 図面管理システム活用のためには,紙媒体の原図の電子化の実施が必要であるため,その促進策を実施した。

 紙媒体の原図を電子化する物量と優先順位付けを行う。原図電子化の優先順位が高いものは,協力会社に貸し出す可能性のある原図の電子化とした。

 まずは,協力会社に貸し出す可能性のある原図の電子化の進捗をKGI,図面管理システムに登録される図面データの数をKPIとして管理することにした。

 原図の電子化の進捗管理は,利用部門の管理者が行うことにした。毎月,図面管理システムに登録されている図面のデータ数を集約し,進捗管理を行う。進捗については,事業所長が参集する会議等で報告することで,事業所の担当者にもプレッシャーを与えることができる。

 また,日常業務に追われて原図を電子化できないという事業所に対しては,原図を電子化するためのスタッフを配置したり,原図の電子化を外部委託した。これらにより,事業所の原図の電子化を進めることができた。

3.2 協力会社の協力

 図面管理システムで原図を電子データで貸出す機能が使えれば,協力会社の業務効率化を実現できることから,協力会社にも紙媒体の原図の電子化に協力してもらうことにした。
具体的には,紙媒体の原図を協力会社に貸し出した場合,必ず電子データで返却してもらうことにした。これにより,各事業所が行う原図の電子化の負担を軽減するとともに,図面管理システムの貸出し・借用機能を使えるまでの期間を短縮できた。

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