システム開発プロジェクトにおけるスケジュールの管理
プロジェクトマネージャ(PM)には,プロジェクトの計画時にシステム開発プロジェクト全体のスケジュールを作成した上で,プロジェクトが所定の期日に完了するように,スケジュールの管理を適切に実施することが求められる。
PM は,スケジュールの管理において一定期間内に投入したコストや資源,成果物の出来高と品質などを評価し,承認済みのスケジュールベースラインに対する現在の進捗の実績を確認する。そして,進捗の差異を監視し,差異の状況に応じて適切な処置をとる。
PM は,このようなスケジュールの管理の仕組みで把握した進捗の差異がプロジェクトの完了期日に対して遅延を生じさせると判断した場合,差異の発生原因を明確にし,発生原因に対する対応策,続いて,遅延に対するばん回策を立案し,それぞれ実施する。
なお,これらを立案する場合にプロジェクト計画の変更が必要となるとき,変更についてステークホルダの承認を得ることが必要である。
設問ア
あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴と目標,スケジュールの管理の概要について,800 字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べたスケジュールの管理の仕組みで把握した,プロジェクトの完了期日に対して遅延を生じさせると判断した進捗の差異の状況,及び判断した根拠は何か。また,差異の発生原因に対する対応策と遅延に対するばん回策はどのようなものか。800 字以上1,600 字以内で具体的に述べよ。
設問ウ
設問イで述べた対応策とばん回策の実施状況及び評価と,今後の改善点について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。
出題趣旨
プロジェクトマネージャ(PM)には,プロジェクトの計画時にプロジェクト全体のスケジュールを作成し,プロジェクトの実行中はプロジェクトが所定の期日に完了するようにスケジュールの管理を適切に実施することが求められる。
本問は,プロジェクトの実行中,スケジュールの管理の仕組みを通じて把握した,プロジェクトの完了期日に対して遅延を生じさせると判断した進捗の差異の状況,判断した根拠,差異の発生原因に対する対応策,遅延に対するばん回策について具体的に論述することを求めている。論述を通じて,PM として有すべきスケジュールの管理に関する知識,経験,実践能力などを評価する。
論文設計
章立て
- プロジェクトの特徴とスケジュール管理の概要
- プロジェクトの特徴と目標
- スケジュール管理の概要
- 進捗差異の状況把握と対応策,遅延のばん回策
- 進捗差異の判断とその根拠
- 進捗差異の発生原因に対する対応策
- 進捗遅延に対するばん回策
- 対応策とばん回策の実施状況と評価,改善点
- 進捗差異の対応策の実施状況と評価
- 今後の改善点
論文例
第1章 プロジェクトの特徴とスケジュール管理の概要
1.1 プロジェクトの特徴と目標
送配電事業を営むA社の事業部門で使用している設備保全システムの再構築プロジェクトについて述べる。
本プロジェクトでは,設備保全システムの再構築により,業務フローを抜本的に見直し,設備保全に関する業務を効率化すること,設備に関する保全データを一元的に管理できるようにすることが目標である。一方,設備保全データの一元管理のため,A社で実施するデータ整備の作業ボリュームが大きいことが特徴である。
また,設備保全システムのベースであるSAPのバージョンの保守期限が迫っている。後続として,SAPのバージョンアップを実施するプロジェクトが控えていることから,本プロジェクトのリリース時期は必達である。
本プロジェクトは,A社事業部門のメンバとシステムベンダー(以下,ベンダー)で構成される。私は,A社事業部門のプロジェクトマネージャとして,本プロジェクトに携わった。
1.2 スケジュール管理の概要
スケジュール管理は週1回の進捗会議で行う。進捗会議には,A社事業部門,ベンダーそれぞれのリーダー以上が参加する。各リーダーは,作業の進捗を報告する。
プロジェクトは長期にわたるため,マイルストーンを設定している。具体的には,要件定義,基本設計,データ整備などである。
また,マイルストーンごとに進捗基準を設定する。例えば,基本設計では,機能ごとにベンダーでの原案作成(進捗25%)→A社レビュー(50%)→ベンダーでの修正(75%)→A社承認(100%)のステップで進捗を管理する。
第2章 進捗差異の把握状況と対応策,遅延のばん回策
2.1 進捗差異の判断とその根拠
A社が実施するデータ整備は設備の種別ごとに作業を進めている。送電・変電・通信それぞれの設備主管チームよりデータ整備のメンバを輩出してもらっている。データ整備の進捗管理は,全データ整備の物量に対して,何%データ整備ができているか管理する。もちろん,データ整備工程完了までに100%のデータの整備が完了できるようにする必要がある。
データ整備を開始して1か月が経過したところ,送電・変電は計画どおりデータ整備を進めているが,通信ではデータ整備の遅れが発生していた。このままのペースでデータ整備を進めた場合,データ整備工程完了までにデータの整備が未完となり,後続のデータ移行の着手が遅れる見込であった。
2.2 進捗差異の発生原因に対する対応策
データ整備が通信のメンバにヒアリングしたところ,設備主管チームの業務が忙しく,データ整備の時間が確保できない,とのことであった。
通信の設備主管チーム統括に確認したところ,確かに本業が忙しいとのことであった。通信のデータ整備に必要な時間の想定を伝えたところ,現状の業務配分では到底対応できないことをチーム統括に理解してもらえた。対応策として,通信メンバの設備主管チームの業務配分を見直してもらい,データ整備に必要な時間を確保できるようにした。
2.3 進捗遅延に対するばん回策
一方,通信のデータ整備が進捗遅延があっても,システム再構築の工期は厳守する必要がある。そのため,データ整備の進捗が遅延している通信のみが,再構築した設備保全システムを使えなくなる可能性がある。
事業部門全体で取り組んでいる設備保全システムの再構築に通信のみが乗り遅れることになるため,何とかばん回策を講じる必要がある。そこで,進捗遅れを取り戻すまでは,通信メンバを1名増員してもらうことにした。増員したメンバにプロジェクトの導入教育やデータ整備の実施方法を説明する時間は必要であったが,1か月メンバ増員してもらうことで進捗遅延を解消できると想定した。
第3章 対応策とばん回策の実施状況と評価,改善点
3.1 進捗差異の対応策とばん回策の実施状況と評価
進捗差異の対応策とばん回策により,通信のデータ整備の進捗遅延は,発覚してから1か月で解消することができた。データ整備の遅延を検知し,早期に対応策とばん回策を行なったことで,後続のデータ移行に間に合わすことができた。これにより,設備保全システム再構築プロジェクトは予定通り完了することができた。また,通信のデータ整備・データ移行もプロジェクトの工程内で完了できたため,通信も再構築したシステムを使って業務を開始することができた。
再構築プロジェクトの工期を厳守したこと,再構築後に全分野でシステムを使用することができたことから,今回の対応策とばん回策は有効であったと評価する。
3.2 今後の改善点
今回,メンバの増員を行うことで,データ整備の遅延をばん回できた。しかし,メンバ増員は単純なコスト増であるため,その対策をとらなくてもよいことが望まれる。
本ケースでは,データ整備を行うメンバのプロジェクト以外の業務の繁忙を検知できていれば,遅れを未然に防止することも可能であったと考える。
特に,データ整備のようなクリティカルパス上の作業に従事するメンバの業務の繁忙を予め把握しておく。メンバの業務が繁忙で,作業時間を確保できないようであれば,メンバの所属長に業務配分を見直してもらう。これにより,必要な作業時間を確保でき,進捗遅れは未然に防止できると考える。
参考文献
- 令和3年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題 問2
更新履歴
- 2023年9月9日 新規作成
- 2023年12月31日 論文掲載