業務要件の優先順位付け

平成28年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問1「業務要件の優先順位付けについて」である。

問題文

情報システムの開発における要件定義において,システムアーキテクトは利用者などとともに,提示された業務要件を精査する。その際,提示された業務要件の全てをシステム化すると,コストが増大したり,開発期間が延びたりするおそれがある。そのため,システムアーキテクトは,業務要件のシステム化によって得られる効果と必要なコストや開発期間などから,例えば次のような手順で,提示された業務要件に優先順位を付ける。

  1. 業務の特性や情報システムの開発の目的を踏まえて,組織の整備や教育訓練などの準備の負荷,業務コスト削減の効果及び業務スピードアップの度合いといった業務面での評価項目を設定する。また,適用する技術の検証の必要性,影響する他の情報システムの修正を含む開発コスト及び開発期間といったシステム面での評価項目を設定する。
  2. 業務の特性や情報システムの開発の目的などを踏まえて,評価項目ごとに重み付けをする。
  3. 業務面,システム面でのそれぞれの評価項目について,業務要件ごとに定量的に評価する。このとき,定性的な評価項目についても,定量化した上で評価する。
  4. 評価項目ごとに付与された重みを加味して総合的に評価し,実現すべき業務要件の優先順位を付ける。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが要件定義に携わった情報システムについて,その概要を,情報システムの開発の目的,対象の業務の概要を含めて,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた情報システムの要件定義で,業務要件をどのような手順で評価したか。その際,どのような評価項目を設定し,どのような考えで重み付けをしたか。800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた評価手順に沿って,どのような業務要件をどのように評価したか。また,その結果それらの業務要件にどのような優先順位を付けたか。幾つかの業務要件について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 情報システムの開発の目的,対象の業務の概要

1.1 情報システムの開発の目的

 私は送配電会社の事業部門で,送変電設備の保全管理を行う設備保全システムの再構築の企画・開発に携わった。設備保全システム再構築の目的は業務のデジタル化であり,以下の2つを実現したい。

 一つは,紙帳票が主体となっている業務からの脱却である。再構築前のシステムでは,紙帳票の出力を必須としており,紙帳票で承認行為を行う業務であった。紙帳票の出力を前提とした業務は,分散勤務や在宅勤務の支障となっており,紙帳票を出力を不要として,システム内で承認行為を実施できるようにシステムを改修する。

 二つは,人手に頼らないシステム連携の実現である。紙帳票で承認行為が行われた後,人手によりシステムのステータスを変更する場合がある。人手でのステータス変更は,抜け・漏れ・改ざんのリスクがある。システム改修により,システム内で承認行為が実施された後,自動的にシステムのステータスを変更できるようにする。

1.2 対象の業務の概要

 対象の業務には,設備異常懸案通知,設備保全計画がある。

 設備異常懸案通知は,設備に異常があった際に,異常の内容,復旧方針などを入力し,通知を発行する。この通知に基づき,設備の手入れ・修理計画を策定する。設備異常懸案通知には,一般通知と水平展開通知の二種類がある。一般は,個別設備の異常を管理する通知である。水平展開通知は,同型設備の異常を管理する通知である。水平展開通知が発行されると同型機器にも通知が展開される。

 設備保全計画は,設備点検の保全計画を策定を支援する機能である。設備毎に保全計画が設定されており,前回点検から設備毎に定められた点検頻度で点検の保全計画を策定する。翌月の保全計画は,前月までに管理者による承認が行われる。同様に,翌年度の保全計画は前年度末まで管理者により承認が必要である。

第2章 業務要件の評価

2.1 業務要件を評価した手順

 設備保全システムの再構築プロジェクトには,予算と工期の制約がある。要件定義を実施した後,次フェーズの基本設計に進む前に業務要件を評価した。優先順位をつけ,予算と工期の制約内で業務要件を開発する。

 今回のプロジェクトでは,次のような手順で,業務要件の優先順位づけを行った。

  1. 設備保全システム再構築の目的,対象の業務の概要を踏まえて,評価項目を設定する。評価項目は,業務遂行,コンセプト,費用対効果,業務品質の四つとする。
  2. 四つの評価項目ごとに重み付けを行う。
  3. 業務要件ごとに四つの評価項目の評価を実施する。例えば,業務遂行の観点では,業務遂行に不可欠な業務要件はHigh,必要な業務要件はMiddle,代替手段で業務遂行が可能な業務要件はLowとした。定量化するため,Highは5点,Middleは3点,Lowは1点と点数付けを行う。
  4. 評価項目ごとに付与された重みを加味して総合的に評価し,実現すべき業務要件の優先順位付けを行う。

2.2 業務要件の評価項目

 業務要件の評価項目は以下の4つを設定した。

 一つ目は,設備保全業務の遂行に関するものである。業務遂行のために必要不可欠なものは5点,必要なものは3点,代替手段で業務遂行が可能なものは1点とした。

 二つ目は設備保全システム再構築のコンセプトに関する評価である。コンセプトの根幹機能は5点,コンセプトと関係が大きい機能は3点,関係が小さい機能は1点とした。

 三つ目は機能の費用対効果である。全部門が利用する機能は5点,一部の部門が利用する機能は3点,特定の人が利用する機能は1点とした。

 四つ目は業務要件の業務品質への影響である。業務品質が向上する機能は5点,やや向上するは3点,変わらないは1点とした。

 上記の四つの評価項目について重み付けを行う。設備保全業務遂行は何よりも優先されるため,重みは3とした。次に,設備保全システム再構築のコンセプトの合致度と費用対効果の重みは2とした。最後に,業務品質への影響の重みは1とした。

第3章 業務要件の評価の具体例

3.1 異常懸案機能の評価

 異常懸案の一般通知機能の評価を行ったところ,業務遂行はLow,コンセプトはMiddle,費用対効果はHigh,業務品質はMiddleであった。また,異常懸案の水平展開通知機能の評価を行ったところ,業務遂行はLow,コンセプトはMiddle,費用対効果はLow,業務品質はMiddleであった。

 評価をLowとした理由について述べる。現行業務でも異常懸案の一般通知,水平展開通知は実施できることから,業務遂行の評価はLowとした。また,異常懸案の水平展開通知は,主管チームのみが利用する機能であり,費用対効果は小さいため,Lowとした。

3.2 保全計画機能の評価

 月間と年間の保全計画機能の評価を行う。月間の保全計画は業務遂行はHigh,コンセプトはMiddle,費用対効果はMiddle,業務品質はMiddleと評価した。また,年間の保全計画は業務遂行はLow,コンセプトはMiddle,費用対効果はMiddle,業務品質はMiddleと評価した。

 年間の保全計画の業務遂行をLowとしたのは,月間の保全計画で代替可能であるためだ。

3.3 優先順位付け

 以上の4つの機能の優先順位付けを行う。4つの機能を定量化したところ,月間の保全計画は24点,設備異常の一般通知は22点,年間の保全計画は18点,設備異常の水平展開通知は14点となった。その結果,予算と工期の制約内で実現可能な月間の保全計画と設備異常の一般通知の機能改修を実施し,年間の保全計画,設備異常の水平展開通知の機能改修については,今回は見送ることとした。 

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