経営戦略実現に向けた戦略的なデータ活用

平成25年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問1「経営戦略実現に向けた戦略的なデータ活用」についてである。

問題文

事業者間の競争が激しくなる中,新規顧客の獲得,顧客満足度の向上などの経営戦略を実現するために有効な施策を立案し,実施することが重要になっている。事業に関連する社内外の様々なデータに着目して事業の現状を的確に把握したり,多方面から分析を行って変化の兆しをいち早く察知したりして,施策の立案に結び付けることができる,戦略的なデータ活用が注目されている。

例えば,戦略的なデータ活用による施策の立案としては,次のような事例がある。

  • インターネット上の様々な Web サイトの情報を分析して一般消費者の潜在的なニーズ,他社の動向などを察知し,商品の企画,販売拡大などの施策を立案する。
  • POS,電子マネー,ネット販売などの顧客の購買履歴データを分析し,商品の品ぞろえの見直し,顧客への新たな提案などの施策を立案する。
  • 設備,機器の稼働実績データを分析し,故障の予兆を察知して予防保全の提案を行なったり,運用改善の提案を行なったりする新たなサービスの提供などの施策を立案する。

IT ストラテジストは,戦略的なデータ活用による施策の立案について経営者,事業責任者に説明するために,経営戦略上の有効性,運営体制,人材育成上の課題,他社の成功要因などの事項を検討しておくことが重要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった経営戦略実現に向けた戦略的なデータ活用について,対象となった事業の概要と特性,及び戦略的なデータ活用を行うことになった背景を,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた戦略的なデータ活用について,活用したデータと分析方法を明らかにするとともに,分析結果を踏まえて立案し,実施した施策を,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた施策について,経営者,事業責任者に説明するために,どのような事項を重要と考えて検討したか。また,立案し,実施した施策に対する経営者,事業責任者からの評価について,改善すべき点を含めて,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 経営戦略実現に向けた戦略的なデータ活用

1.1 対象となった事業の概要と特性

 送配電会社の主たる事業は,発電所から一般家庭や工場などのユーザへ電気を届けることである。電気を届けるためには,送電線や鉄塔などの送電設備,変圧器や遮断器などの変電設備,配電線や電柱などの配電設備など,多くの設備が必要である。

 送配電会社の経営戦略は,低廉な料金で電力を安定供給することであり,そのためには送配電設備を維持費用を低減することが求められている。

1.2 戦略的なデータ活用を行うことになった背景

 送配電設備は,我が国の高度経済成長に応じて整備されてきた。そのため,高度経済成長期に整備された送配電設備の高経年化は,今後ピークを迎えることになる。一方,ここ数年においては,電力の需要は伸びておらず,今後の伸びも期待できない。それを踏まえると,送配電会社ではヒト・モノ・カネのリソースは増やすことはできない。

 電力を安定的に送り続けるには,送配電設備の維持が必要であるが,限られたリソースで実施する必要がある。そのためには,計画的に高経年設備対策を実施していく必要がある。計画策定時の根拠となるのは,送配電設備の取替経年の目安であるが,データを活用することで,より戦略的な設備計画を策定することが求められている。

第2章 データ分析と実施した施策

2.1 活用したデータと分析方法

 変電設備の中では,電力用変圧器は最も高価な機器であり,取替経年の目安を延伸することができれば,経営上のインパクトは大きい。電力用変圧器の余寿命を推定することを目的として,データを活用することにした。

 電力用変圧器の余寿命は,巻線などに使用されている絶縁紙の劣化といわれている。また,絶縁紙は熱により劣化することが実験で知られている。つまり,変圧器内部の絶縁紙の温度履歴を推定できれば,電力用変圧器の余寿命を知ることができる。

 電力用変圧器の負荷電流,外気温から,変圧器内部の絶縁紙の温度を計算するモデルが研究機関で提案されており,それを利用した。なお,モデルのパラメータは,電力用変圧器の設計データより設定できる。

 電力用変圧器の余寿命(つまり変圧器内部の絶縁紙の温度履歴)を推定するため,電力用変圧器の設計データ(冷却効率や損失など),電力用変圧器の稼働実績データ(負荷電流),電力用変圧器が設置されている地域の気象データ(外気温)を用いた。

 これらのデータをモデルに投入することで,変圧器内部の絶縁紙の温度履歴を推定し,電力用変圧器の余寿命を知ることができる。

2.2 分析結果を踏まえて立案し,実施した施策

 電力用変圧器は,送配電会社のエリアに広く分布して設置されている。送配電会社のエリア内では外気温は大きく変わらないため,変圧器の余寿命を決める大きな要因は,電力用変圧器の負荷電流の大小によることがわかった。具体的には,電力用変圧器の負荷電流が大きければ寿命が短く,負荷電流が小さければ寿命が長くなる。

 電力用変圧器の平均的な負荷電流(平均負荷率)に着目すれば,平均負荷率の小さいものは,取替経年の目安を延伸できると判断した。

第3章 経営者,事業責任者への説明と評価

3.1 重要と考えて検討した事項

 経営者,事業責任者へ説明するとき,重要と考えて検討したのは,電力用変圧器の取替経年の目安の変更により,電力用変圧器の更新計画へどの程度影響があるかを示すことである。

 データ活用する前の更新計画とデータ活用後の更新計画を示すことで,経営者,事業責任者へ経営戦略上の有効性を理解してもらえた。

3.2 経営者,事業責任者からの評価

 経営者,事業責任者からデータ活用により,電力用変圧器の取替経年の目安を延伸できたことについては高い評価を得た。

 一方,負荷電流の小さい電力用変圧器は,これまでよりも長く使用していくことになるが,メンテナンスの方法は変える必要はないか問われたが,それについては未検討であった。

 電力用変圧器を長く使用する場合,油密部に使用されているパッキン類の経年劣化による漏油で修理困難となるケースが想定された。漏油リスクを低減できるメンテナンスの方法を考える必要がある。

 電力用変圧器の取替経年の目安の半分程度で,オーバーホールを行い,パッキン類を交換することで,漏油リスクを低減する施策を立案した。オーバーホールの費用は増加するが,変圧器の取替経年を延伸することによる費用低減の効果は大きく,その施策を採用することにして,経営者,事業責任者に了承を得た。

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