IT を活用した事業戦略の策定
平成24年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午後Ⅱ 問題 問1「IT を活用した事業戦略の策定」についてである。
問題文
企業は市場における競争力を高めるために,競合他社との差別化を図った製品・サービスの提供,コストリーダシップの実現,ニッチ市場への参入・拡大などの競争戦略を立案する。立案した競争戦略に基づき,IT ストラテジストは,業種ごとの事業特性を踏まえて,IT を活用した事業戦略を策定し,経営トップ,事業責任者に対して提案する。競争戦略を実現するための事業戦略の例を示す。
- 他社との差別化を図るために,店舗の販売責任者に,店内での売行き,顧客の動きをリアルタイムに提供して,サービス品質を向上させる。
- ローコストオペレーションのために,拠点間,企業間で情報を共有して連携し,バリューチェーンの再構築を行う。
- ニッチ市場での地位を確立するために,インターネット,モバイル機器などを活用した新しいサービスを提供する。
事業戦略の策定においては,その合理性,実現可能性などの観点から様々な検討を行う必要があり,IT ストラテジストには,例えば,次のような分析が求められる。
- 先進の IT を活用した事例の詳細な調査・分析
- 大幅な業務効率向上や他社との差別化が,IT の活用によって可能な業務プロセスの明確化と課題分析
- 活用する IT の機能・性能・信頼性などについての要求レベルの分析
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。
設問ア
あなたが携わった IT を活用した事業戦略の策定において,前提となった競争戦略について,事業特性とともに,800 字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べた競争戦略に基づき,どのような検討を行い,どのような事業戦略を策定したか。活用した IT を明確にして,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。
設問ウ
設問イで述べた事業戦略を経営トップ,事業責任者に対してどのように提案し,どう評価されたか。更に改善する余地があると考えている事項を含めて,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。
論文案
第1章 前提となった事業戦略
1.1 競争戦略
一般送配電事業は,発電した電気を電気を使用するお客さまにお届けする事業である。一般送配電事業者は,各エリアごとで事業を行っており,直接的な競争関係にないものの,託送料金について他の事業者と比較される。また,電力・ガス取引監視等委員会において適切な託送料金について審査される。
一般送配電事業を営むA社では,電気を届けるための送配電設備を維持管理していく事業のウェイトが大きい。送配電設備の維持管理はA社だけでなく,地元の協力会社が一体となって行っている。
高度成長期に整備された送配電設備が高経年化しており,維持管理のための対策工事は今後ピークを迎えていく。限られたリソースで,対策工事を実施していく必要がある。
1.2 競争戦略
A社の託送料金は,日本で最も安く,A社ではそれをPR材料としている。よいPR材料となるため,A社では低廉な託送料金を維持することを競争戦略としている。
競争戦略を実現するためには,ウェイトの大きい送配電設備の維持管理コストの低減が必要である。送配電設備の維持管理をA社とともに担う協力会社と一体となり,設備の維持管理の効率化に取り組んでいる。例えば,協力会社の経営層との懇談会を行い,設備の維持管理における課題を共有し,A社では事業戦略策定の参考としている。
第2章 事業戦略の策定と活用したIT
2.1 事業戦略の策定
送配電設備の図面は,送配電会社の各拠点で管理している。送配電会社の拠点間で図面をやり取りすることはまれであるが,設備の維持管理を行う協力会社には,しばしば送配電設備の図面を貸し出す。図面は紙媒体で管理されているため,協力会社に図面を貸し出すときは,協力会社に送配電会社の各拠点まで出向してもらっている。
また,廃止された送配電設備の図面が残っている場合もあり,適正に図面が管理されていない課題もある。
そこで,図面を管理するためのシステム(以降「図面管理システム」)を構築することで,送配電会社と協力会社との間で図面を電子データで共有できるようにする。また,設備管理システムと連携することで,設備の稼働状況に応じて図面を適正に管理できるようにする。
2.2 活用したIT
図面管理システムの事例を調査したところ,送配電設備の機器メーカで図面を管理するためのシステムを保有していることがわかった。
そのシステムを調査したところ,図面を管理する仕組みは流用可能であるが,協力会社へ図面を貸し出す機能,設備管理システムと連携する機能は新たに開発する必要があることが判明した。
図面管理システムでは,送配電設備に関する情報を扱うため,信頼性が求められる。信頼性を確保するため,社内ネットワーク内にシステムを構築することにした。
協力会社へ図面の電子データを貸し出せる仕組みの構築も必要である。そこで,協力会社が社内ネットワークの図面管理システムにアクセスできるよう,リバースプロキシサーバを導入することにした。
協力会社に図面管理システムの電子データを貸し出す際は,協力会社へ図面管理システムにアクセスするためのURLを送付し,協力会社はそのURLをクリックすることで,リバースプロキシサーバを介して,社内の図面管理システムにアクセスできるようにした。
また,設備管理システムでは,送配電設備ごとの稼働状況を保持している。そのデータを図面管理システムに読み込ませることで,廃止された設備の図面データには,削除フラグが設定される機能を実現した。
第3章 事業責任者への提案と評価
3.1 事業責任者への提案
事業責任者へ図面管理システムの構想について説明した。合わせて,図面管理システムの開発費用・運用費用とシステムを導入することで実現できる効率化効果を示し,本システムに投資すべし,と提案した。
図面管理システムは,効率化のみならず,図面に関する業務品質にも寄与する構想であることが評価され,システム導入は承認された。
一方,現在の図面管理システムの構想は,送配電設備のうち一部の設備だけを対象としているが,その他の設備にも適用できないか,検討するよう指示された。
3.2 改善する余地
図面管理システムは,汎用的なシステムであるため他の設備にも適用可能であると考えた。他の設備を主管する部署へ図面管理システム構想について説明し,適用できるか検討してもらった。
他の設備では,別の設備管理システムを使用しているため,それと連携する機能は追加が必要であるが,他の設備の図面管理でも使用できる見通しを得た。
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