システム開発プロジェクトにおける信頼関係の構築・維持

プロジェクトマネージャ(PM)には,ステークホルダとの信頼関係を構築し,維持することによってプロジェクトを円滑に遂行し,プロジェクト目標を達成することが求められる。

例えば,プロジェクトが山場に近づくにつれ,現場では解決を迫られる問題が山積し,プロジェクトメンバの負荷も増えていく。時間的なプレッシャの中で,必要に応じてステークホルダの協力を得ながら問題を解決しなければならない状況になる。このような状況を乗り切るには,問題を解決する能力や知識などに加え,ステークホルダとの信頼関係が重要となる。信頼関係が損なわれていると,問題解決へ向けて積極的に協力し合うことが難しくなり,迅速な問題解決ができない事態となる。

PM は,このような事態に陥らないように,ステークホルダとの信頼関係を構築しておくことが重要であり,このため,行動面,コミュニケーション面,情報共有面など,様々な切り口での取組みが必要となる。また,構築した信頼関係を維持していく取組みも大切である。

設問

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴,信頼関係を構築したステークホルダ,及びステークホルダとの信頼関係の構築が重要と考えた理由について,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたステークホルダとの信頼関係を構築するための取組み,及び信頼関係を維持していくための取組みはそれぞれ,どのようなものであったか。工夫した点を含めて,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問アで述べたプロジェクトにおいて,ステークホルダとの信頼関係が解決に貢献した問題,その解決において信頼関係が果たした役割,及び今後に向けて改善が必要と考えた点について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

出題趣旨

プロジェクトマネージャ(PM)には,ステークホルダとの信頼関係を構築し,維持することによってプロジェクトを円滑に運営し,プロジェクト目標を達成することが求められる。

本問は,ステークホルダとの信頼関係を構築する取組みと信頼関係を維持していく取組み,ステークホルダとの信頼関係が解決に貢献した問題などについて具体的に論述することを求めている。論述を通じて,PM として有すべきステークホルダの管理に関する知識,経験,実践能力などを評価する。

解答案

章立てを考える

  1. プロジェクトの特徴及び信頼関係を構築したステークホルダとその理由
    • プロジェクトの特徴
    • 信頼関係を構築したステークホルダとその理由
  2. ステークホルダとの信頼関係の構築及び維持するための取組み
    • ステークホルダとの信頼関係を構築するための取組み
    • ステークホルダとの信頼関係を維持していくための取組み
  3. 信頼関係が解決に貢献した問題,貢献した役割及び今後の改善点
    • ステークホルダとの信頼関係が解決に貢献した問題
    • 解決において信頼関係が貢献した役割
    • 今後に向けて改善が必要と考えた点

論文案

第1章 プロジェクトの特徴及び信頼関係を構築したステークホルダとその理由

1.1 プロジェクトの特徴

送配電事業を営むA社の事業部門では,送電・変電・通信の設備を所管している。それらの設備の巡視を行い,巡視結果を管理するため巡視システムの再構築プロジェクトを行った。私は事業部門のプロジェクトマネージャとして,本プロジェクトに参画した。

巡視システム再構築プロジェクトでは,送電・変電・通信で所管する設備毎に巡視で記録したデータを蓄積できることを目指している。その実現には,設備毎に巡視項目をシステムで設定する必要があり,システム運用開始までに大量のデータを整備する必要であることがプロジェクトの特徴である。

1.2 信頼関係を構築したステークホルダとその理由

本プロジェクトを遂行するため,信頼関係を構築したステークホルダは,巡視システムを使い,巡視を行う設備管理課の従業員である。

前述のとおり,データ整備作業のボリュームが大きいため,プロジェクトメンバだけでデータ整備作業を全て実施することはできない。そこで,送電・変電・通信それぞれの設備管理課の従業員にデータ整備作業の大半を実施してもらう必要がある。設備管理課の従業員は,日常業務を実施しながら,新しい巡視システムに必要なデータ整備作業を行ってもらうため,業務の負担も大きい。一方,データ整備が所定の期日まで間に合わなければ,新システムが稼働しても,新システムで巡視を行うことができない。

以上のことから,設備管理課の従業員と信頼関係を構築し,プロジェクトメンバと協力して,データ整備作業をやり遂げる体制を築く必要がある。

第2章 ステークホルダとの信頼関係の構築及び維持するための取組み

2.1 ステークホルダとの信頼関係を構築するための取組み

ステークホルダとの信頼関係を構築するための取組みとして,データ整備ワーキング(以下,WG)を立ち上げることにした。WGを立ち上げるにあたり,送電・変電・通信それぞれの設備管理課長へWGに参加するメンバを募った。

各設備管理課長から推薦されたWGメンバとプロジェクトが一体となり,データ整備作業をやり遂げるために,第1回目のWGでは以下のことを共有した。

  1. 巡視システム再構築の目的と目指す姿を共有
  2. 巡視システム再構築完了に向けて,データ整備作業,データ移行作業を進める工程の共有

また,上記以外にもプロジェクトに関する情報は,社内のイントラネットでWGメンバと共有できるようにした。また,WGメンバがデータ整備中に抱いた疑問を共有するため,社内のFAQシステムを活用することにした。

2.2 ステークホルダとの信頼関係を維持するための取組み

データ整備作業に着手して以降,2週間に1回の頻度でWGを実施するようにした。

WGでは,プロジェクトメンバが設備管理課メンバに対して,データ整備作業の実施方法について詳細に教えることがメインとなる。設備管理課のメンバは,習得したデータ整備作業のやり方で,各課のデータ整備を進める。そして2週間後のWGで結果を報告する。このように短い周期でデータ整備作業のレクチャ,実践,確認を行うことで,大きな手戻りがないようにしようと試みた。

また,データ整備作業を行なう設備管理課メンバの負担を極力増やさないよう,データ整備作業以外の間接作業はプロジェクトメンバで実施することにした。具体的には,各設備管理課で実施するデータ整備作業の進捗管理は,プロジェクトメンバが実施する。各課の日常業務の都合により,データ整備を行う時間が十分に確保できず,データ整備の進捗が遅れた場合は,プロジェクトより支援できるよう配慮する。

第3章 信頼関係が解決に貢献した問題,貢献した役割及び今後の改善点

3.1 ステークホルダとの信頼関係が解決に貢献した問題

ステークホルダとの信頼関係を築いたことにより,巡視システム再構築プロジェクトの工程内で,巡視に必要なデータ整備を完了することができた。それにより,再構築したシステムの運用開始当初から,送電・変電・通信全ての分野で巡視システムを使用できた。

3.2 解決において信頼関係が貢献した役割

今回,巡視システム再構築プロジェクトのデータ整備を進めるにあたり,各設備管理課のメンバと信頼関係を築いたことで,限られた工期の中でプロジェクトを成功させるという一体感が生まれた。本プロジェクトでのデータ整備作業は,過去に経験したことがない大規模なものであったが,信頼関係のおかげで,大きなトラブルもなく,工期内で完了させることができた。

3.3 今後に向けて改善が必要と考えた点

今回のWGには,送電・変電・通信の設備管理課に参加してもらった。しかし,データ整備作業には送電,変電,通信の独自のものもあり,データ整備作業のレクチャが,一部の分野にしか当てはまらないものもあった。そのため,WGに参加した設備管理課のメンバの一部のみへのレクチャで十分なものもある。

データ整備作業を進めるにあたり,WGは有効であったが,WGの議題によっては参加者を絞る方法もできたと考える。特に設備管理課のメンバは,通常業務をやりながらのWG参加であるため,拘束時間を増やさないよう配慮したほうがよかった。

参考文献

  • 平成29年度 春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題 問1

更新履歴

  • 2023年9月18日 新規作成
  • 2023年12月31日 論文案を掲載

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