システム開発プロジェクトにおける本稼働間近で発見された問題への対応
プロジェクトマネージャ(PM)には,システム開発プロジェクトで発生する問題を迅速に把握し,適切な解決策を立案,実施することによって,システムを本稼働に導くことが求められる。しかし,問題の状況によっては暫定的な稼働とせざるを得ないこともある。
システムの本稼働間近では,開発者によるシステム適格性確認テストや発注者によるシステム受入れテストなどが実施される。この段階で,機能面,性能面,業務運用面などについての問題が発見され,予定された稼働日までに解決が困難なことがある。しかし,経営上や業務上の制約から,予定された稼働日の延期が難しい場合,暫定的な稼働で対応することになる。
このように,本稼働間近で問題が発見され,予定された稼働日までに解決が困難な場合,PM は,まずは,利用部門や運用部門などの関係部門とともに問題の状況を把握し,影響などを分析する。次に,システム機能の代替手段,システム利用時の制限,運用ルールの一時的な変更などを含めて,問題に対する当面の対応策を関係部門と調整し,合意を得ながら立案,実施して暫定的な稼働を迎える。
設問
設問ア
あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴,本稼働間近で発見され,予定された稼働日までに解決することが困難であった問題,及び困難と判断した理由について,800 字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べた問題の状況をどのように把握し,影響などをどのように分析したか。また,暫定的な稼働を迎えるために立案した問題に対する当面の対応策は何か。関係部門との調整や合意の内容を含めて,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。
設問ウ
設問イで述べた対応策の実施状況と評価,及び今後の改善点について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。
出題趣旨
プロジェクトマネージャ(PM)には,システム開発プロジェクトで発生する問題を迅速に把握し,適切な解決策を立案,実施することによって,システムを本稼働に導くことが求められる。しかし,問題の状況によっては暫定的な稼働とせざるを得ないこともある。
本問は,稼働日の延期が難しい状況にあるときに,本稼働間近で稼働日までに解決が困難な問題が発見された場合,利用部門や運用部門などの関係部門と調整し,合意を得ながら,暫定的な稼働に至るために立案,実施した当面の対応策について具体的に論述することを求めている。論述を通じて,PM として有すべき問題解決に関する知識,経験,実践能力などを評価する。
解答案
章立て
- プロジェクトの特徴と本番間近で発見された問題
- プロジェクトの特徴
- 解決困難であった問題とその判断理由
- 状況把握と影響分析及び対応策の立案
- 状況の把握と影響の分析
- 当面の対応策
- 実施状況とその評価,及び今後の改善点
- 当面の対応策の実施状況と評価
- 今後の改善点
論文案
第1章 プロジェクトの特徴と本稼働間近で発見された問題
1.1 プロジェクトの特徴
送配電事業を営むA社の事業部門で使用している巡視・点検システムの再構築プロジェクトに事業部門のプロジェクトマネージャ(PM)として参加した。
このプロジェクトでは,巡視・点検システムの再構築を行う。これまでは,巡視・点検の記録を帳票形式のデータで管理していたが,再構築以降は設備毎に巡視・点検の記録を管理できるようにする。これにより,設備の状態に応じた設備更新計画を立案することを目指す。
巡視・点検の対象となる送電,変電,通信の設備は多く,また巡視・点検の項目は非常に多い。
一方,このプロジェクトの後続には,巡視・点検システムの基盤として利用しているERPシステムのバージョンアッププロジェクト(以下,次プロジェクト)が計画されている。ERPシステムは保守期限が迫っているため,本プロジェクトは工期内に完了させ,次プロジェクトに着手することが必須である。
1.2 解決困難であった問題とその判断理由
本稼働間近で発見された問題は2つあり,いずれも受入テストで発見された。
一つ目は,巡視記録の入力項目が一定値を超えた場合,巡視記録入力シートをシステムで生成する時間がかかる問題だ。業務時間中には許容できないほど時間がかかっており,システムベンダーと対応策を検討した。巡視記録入力シートを作成するプログラムを見直してもらえないかシステムベンダーに相談したが,プロジェクトの工期内で対応することは困難であった。
二つ目は,点検結果をシステムに登録するとき,フリーテキスト欄に入力した文字の一部が正しく登録されない問題だ。こちらもシステムベンダーとともに原因を調査したが,特定の文字を入力した場合に発生する問題であることのみしかわからなかった。
第2章 状況把握と影響分析及び対応策の立案
2.1 状況の把握と影響の分析
巡視記録入力シートをシステムで生成する際,時間がかかる問題の状況の把握と影響の分析を行う。
巡視記録の入力項目の数と巡視記録入力シートをシステムで生成する時間の相関図を作成した。相関図を作成したところ,巡視記録の入力項目の数と巡視記録入力シートをシステムで生成する時間は,指数関数的に増加していることがわかった。システムを利用者にヒアリングしたところ,入力項目が1000のシート生成時間5分が業務で使用する上での許容範囲とのことであった。
また,実際の巡視データを確認し,1回の巡視で1000を超える入力項目があるケースを抽出した。その結果,1000を超える入力項目があったのは,通信設備の巡視の一部のケースのみであった。よって,この問題の影響範囲は通信設備の巡視の一部に限られることが判明した。
点検結果のフリーテキスト欄のデータが正しく連携できない問題については,どの文字を使用した場合に起きるかを調査した。普段,使用する文字であれば問題は生じないが,特殊な記号を使用した場合にのみ発生することがわかった。また,システム利用者に確認したところ,点検結果のフリーテキスト欄を使用するのは,設備の異常が発見されたときのみで利用頻度は小さいとのことであった。
2.2 当面の対応策
当面の対応策について,通信部門の担当者と協議した。通信部門の担当者としても,巡視記録入力シートの生成時間が5分を超えることは許容できないとのことであり,何らかの対応策が必要である。そこで,本来は1つのシートで生成する予定であった巡視記録入力シートを複数に分割し,巡視記録の入力項目の数が1000を超えないようにすることを提案した。通信部門の担当者は,シートが複数に分かれるのは手間が増えるが,シート生成時間が許容範囲に収まるため,この対応を受け入れてもらえることになった。
点検結果のデータ連携の問題については,点検結果のフリーテキスト欄の近くに,注意書きとして,使用できない文字を明示することにした。これにより,特殊な記号を使用され,データが正しく連携されなくなる問題の発生は抑えることができる。
第3章 実施状況とその評価,及び今後の改善点
3.1 当面の対応策の実施状況と評価
巡視記録入力シートの対応策により,1シートの巡視記録入力項目を1000以下にすることで,シート生成時間が長くなる問題は回避できた。これにより,システム運用開始当初から通信部門で巡視記録入力シートが業務で使えたことは評価できる。プロジェクト完了後,巡視記録入力シート生成のプログラムを見直し,シート生成時間を短くすることを検討している。
点検結果のデータ連携の問題については,システム利用者に対してフリーテキスト欄に特殊な記号を使用しないよう注意喚起をしたこと,また,その旨を見える化したことから,データ連携の不具合は発生していない。抜本的な解決ではないが,有効な暫定対策でシステム運用開始できたことは評価できる。こちらも,プロジェクト完了後の事後改修において,特殊文字が使用された場合の禁則処理を追加することを検討している。
3.2 今後の改善点
巡視・点検システムの再構築により,巡視・点検の対象設備,項目が多くなることは,予想できた。このように連携するデータが多い場合,システムのレスポンスについて,もっと早い段階から注意を払うべきだったと考える。例えば,実運用で連携しうるデータ数を想定し,システムの性能が十分であるかを評価する。これにより,受入テストより前に問題を検知できた。
また,特殊文字が使用された場合に正しくデータ連携できないことは,今後の教訓として残しておく。さらに,データ連携プログラムの標準として,特殊文字が使用された場合の禁則処理を追加しておく。
参考文献
- 平成30年度 春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題 問2
更新履歴
- 2023年9月17日 新規作成
- 2023年12月31日 論文案を掲載