システム開発プロジェクトにおける要件定義のマネジメント

プロジェクトマネージャには,システム化に関する要求を実現するため,要求を要件として明確に定義できるように,プロジェクトをマネジメントすることが求められる。

システム化に関する要求は従来に比べ,複雑化かつ多様化している。このような要求を要件として定義する際,要求を詳細にする過程や新たな要求の追加に対処する過程などで要件が膨張する場合がある。また,要件定義工程では要件の定義漏れや定義誤りなどの不備に気付かず,要件定義後の工程でそれらの不備が判明する場合もある。このようなことが起こると,プロジェクトの立上げ時に承認された個別システム化計画書に記載されている予算限度額や完了時期などの条件を満たせなくなるおそれがある。

要件の膨張を防ぐためには,例えば,次のような対応策を計画し,実施することが重要である。

  • 要求の優先順位を決定する仕組みの構築
  • 要件の確定に関する承認体制の構築

また,要件の定義漏れや定義誤りなどの不備を防ぐためには,過去のプロジェクトを参考にチェックリストを整備して活用したり,プロトタイプを用いたりするなどの対応策を計画し,実施することが有効である。

設問

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおける,プロジェクトとしての特徴,及びシステム化に関する要求の特徴について,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたプロジェクトにおいて要件を定義する際に,要件の膨張を防ぐために計画した対応策は何か。対応策の実施状況と評価を含め,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問アで述べたプロジェクトにおいて要件を定義する際に,要件の定義漏れや定義誤りなどの不備を防ぐために計画した対応策は何か。対応策の実施状況と評価を含め,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

出題趣旨

プロジェクトマネージャ(PM)には,システム化に関する要求が従来に比べて,複雑化かつ多様化している中で,システム化で実現する要件を適切に定義できるようにプロジェクトをマネジメントし,プロジェクト目標を達成することが求められる。

本問は,要件を定義する際に計画した,要件の膨張を防ぐ対応策と要件の定義漏れや定義誤りを防ぐための対応策,及びそれらの対応策の実施状況と評価について具体的に論述することを求めている。論述を通じて,PM として有すべきプロジェクトの計画・管理・運営に関する知識,実践能力などを評価する。

解答案

章立てを考える

  1. プロジェクトの特徴とシステム化に関する要求の特徴
    • プロジェクトとしての特徴
    • システム化に関する要求の特徴
  2. 要件の膨張を防ぐために計画した対応策,実施状況と評価
    • 要件の膨張を防ぐために計画した対応策
    • 対応策の実施状況と評価
  3. 不備を防ぐために計画した対応策,実施状況と評価
    • 要件の定義漏れや定義誤りなどの不備を防ぐために計画した対応策
    • 対応策の実施状況と評価

論文案

第1章 プロジェクトの特徴とシステム化に関する要求の特徴

1.1 プロジェクトとしての特徴

送配電事業を営むA社の事業部門は,送電・変電・通信の設備を所管している。この事業部門が使用している点検システムの再構築プロジェクトについて述べる。私は,事業部門のプロジェクトマネージャとして,このプロジェクトに参画した。

現行の点検システムは,設備を点検した際に作成する点検報告書を管理するシステムである。現行システムでは,PDFやExcelなど様々なフォーマットの点検報告書を登録できる。そのため,設備の点検記録を,機械的にデータとして取り扱うことが困難という課題があった。

点検システムの再構築では,設備の点検記録は,設備に紐づけて一元的に管理できるようにする。そして,システム内のデータは,機械的に取り扱えるようにする。合わせて,点検業務の効率化を目指す。

1.2 システム化に関する要求事項

事業部門が所管する送電・変電・通信の設備の種類は多い。また,設備毎に点検項目を定めている。そのため,設備の点検記録を設備に紐づけて一元的に管理するための要求は,複雑化かつ多様化していると言える。

また,送配電設備の更新計画には,アセットマネジメントの考え方が導入されようとしている。別のプロジェクトにおいて,アセットマネジメントシステム(以下,アセマネシステム)の開発が行われている。再構築した点検システムから,設備の点検記録の最新データを抽出して,アセマネシステムのインプットデータとする要求もある。

第2章 要件の膨張を防ぐために計画した対応策,実施状況と評価

2.1 要件の膨張を防ぐために計画した対応策

要件の膨張を防ぐため計画した対応策は3つある。

一つ目は,点検システム再構築のベース要件への対応策である。ベース要件とは,設備の点検を実施し,点検記録を設備に紐づけて管理する要件である。これは,プロジェクトで目指していることに直結するため,必ず実現させる必要がある。そのため,ベース要件は他の要件より優先的に確定させる。

二つ目は,点検システム再構築に合わせて実現したい効率化などストレッチ要件への対応策である。効率化の一例として,点検において設備の異常が発見され,点検記録に異常と登録されると,設備の異常懸案票を自動的に起票するような機能である。これらの機能は開発コスト(Cost),得られる効率効果(Benefit)より求められるB/Cにより優先順位をつけることにする。

三つ目は,アセマネシステムと連携する要件への対応策である。アセマネシステムの開発も進行中であり不確定要素も多い。そのため,本プロジェクトの予算と工期の範囲内で,可能な限りアセマネシステムと連携する要件に対応することにする。

2.2 対応策の実施状況と評価

一つ目の点検システム再構築のベース要件については,対応策のとおり,他の要件より優先的に確定させた。

二つ目のストレッチ要件については,点検システム再構築のベース要件を確定後に着手した。効率化のための機能の要件が複数出てきた。対応策のとおり,開発コストと効率化効果のB/Cで優先付けを行った。そして,プロジェクトの予算限度額や完了時期などの条件で,B/Cの高いものを要件に織り込んだ。

三つ目のアセマネシステムと連携する要件への対応策であるが,アセマネシステムのプロジェクトと協調したマイルストーンを設定し,連携要件を確定させた。

これら三つの対応策については確実に実施され,プロジェクトの工期と予算の制約を満たすことができた。

第3章 不備を防ぐために計画した対応策,実施状況と評価

3.1 要件の定義漏れや定義誤りなどの不備を防ぐために計画した対応策

点検システム再構築のベース要件において,要件の定義漏れや定義漏れがあると,点検業務を実施することができない。そのため,要件定義において,業務フローと画面のプロトタイプを作成し,点検業務に従事している従業員に確認してもらうプロセスを設けた。このプロセスで,再構築する点検システムのイメージを持ち,点検業務の実施する上で,要件の定義漏れや定義誤りなどの不備がないか確認してもらった。

また,点検システム稼働前のデータ整備では,設備毎の点検項目を設定する。点検項目の漏れや誤りがあっては,点検業務を実施する際,適切な点検ができない。そこで,データ整備の承認は,送電・変電・通信の設備主管箇所が行うプロセスにした。

3.2 対応策の実施状況と評価

点検システム再構築のベース要件については,業務フローや画面のプロトタイプを点検業務に従事している従業員に確認してもらった。その際,点検業務を実施するための要件の定義漏れや定義誤りがいくつか発見された。発見された不備は,プロジェクトで対応した上で,システムをリリースした。リリース後,システムで点検業務を実施できていることから,対応策は有効であったと評価できる。

点検システムのデータ整備の不備を防ぐために計画した対応策であるが,計画どおり送電・変電・通信の設備主管箇所に最終確認を依頼した。点検する機器の種類が多く,また機器毎の点検項目も多いことから,整備したデータ量は膨大であった。設備主管箇所が責任を持って,所定の期日までに最終確認を行なってくれたので,予定通りシステムのリリースを行うことができた。システムリリース後,整備したデータの一部に不備が発見されたが,設備主管箇所がその都度,訂正している。設備主管箇所の責任で運用できていることから,今回の対応策は有効であったと評価できる。

参考文献

  • 平成24年度 春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題 問2

更新履歴

  • 2023年9月26日 新規作成
  • 2023年12月31日 論文案を掲載

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