システム開発プロジェクトにおける組織要員管理
プロジェクトマネージャ(PM)には,プロジェクト目標の達成に向けてプロジェクトを円滑に運営できるチームを編成し,チームを構成する要員が個々の能力を十分に発揮できるように要員を管理することが求められる。
要員のもつ能力には,専門知識や開発スキルなどの技術的側面や,精神力や人間関係への対応力などの人間的側面がある。プロジェクトの遂行中は,ともすれば技術的側面を重視しがちである。しかし,人間的側面に起因した問題(以下,人間的側面の問題という)を軽視すると,次のようなプロジェクト目標の達成を阻害するリスクを誘発することがある。
- 意欲の低下による成果物の品質の低下
- 健康を損なうことによる進捗の遅延
- 要員間の対立がもたらす作業効率の低下によるコストの増加
PM はプロジェクトの遂行中に人間的側面の問題の発生を察知した場合,その問題によって誘発される,プロジェクト目標の達成を阻害するリスクを想定し,人間的側面の問題に対して原因を取り除いたり,影響を軽減したりするなどして,適切な対応をとる必要がある。
あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。
設問
設問ア
あなたが携わったシステム開発プロジェクトの目標,及びプロジェクトチーム編成とその特徴について,800 字以内で述べよ。
設問イ
設問アで述べたプロジェクトの遂行中に察知した人間的側面の問題と,その問題によって誘発されると想定したプロジェクト目標の達成を阻害するリスク,及び人間的側面の問題への対策について,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。
設問ウ
設問イで述べた対策の評価,認識した課題,今後の改善点について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。
出題趣旨
プロジェクトマネージャ(PM)は,システム開発においてプロジェクトの目標を達成するため,個々の要員が本来の能力を発揮できるように,要員がもつ能力の技術的側面と人間的側面に配慮して要員を管理する必要がある。
本問は,人間的側面の問題によって誘発されるプロジェクト目標の達成を阻害するリスクを想定し,人間的側面の問題に対する対策とその対策の評価,認識した課題,今後の改善点について,具体的に論述することを求めている。論述を通して,PM として有すべきプロジェクトの組織要員管理に関する知識,実践能力などを評価する。
解答案
章立てを考える
- システム開発プロジェクトの目標,プロジェクトチーム編成とその特徴
- システム開発プロジェクトの目標
- プロジェクトチームの編成とその特徴
- 人間的側面の問題とプロジェクト目標の達成を阻害するリスク,対策
- プロジェクトの遂行中に察知した人間的側面の問題
- 想定したプロジェクト目標の達成を阻害するリスク
- 人間的側面の問題への対策
- 対策の評価,認識した課題,今後の改善点
- 対策の評価
- 認識した課題
- 今後の改善点
論文案
第1章 システム開発プロジェクト目標,プロジェクトチーム編成と特徴
1.1 システム開発プロジェクトの目標
送配電事業を営むA社の事業部門が使用している設備保全システムの再構築プロジェクトについて述べる。私は,事業部門のプロジェクトマネージャ(以下,PM)として,本プロジェクトに参画した。
A社の事業部門では,送電・変電・通信設備の保全を行なっている。設備保全の業務を実施するために使用している設備保全システムの再構築では,業務プロセスの抜本的な見直し,効率化を実現することをプロジェクトの目標としている。
また,2021年7月から2023年6月まで,2年間の長期プロジェクトである。プロジェクトは予算は厳守,そして,再構築したシステムのリリース時期(2023年7月)は必達である。
1.2 プロジェクトチームの編成と特徴
システム開発プロジェクトにおける事業部門のプロジェクトチームについて述べる。このチームは本プロジェクトのために編成されたチームである。送電・変電・通信に関わる設備保全システムを再構築するため,各分野からチームメンバが集められた。メンバは,送電・変電・通信の設備保全業務(保守や工事)を経験しているが,システム開発は未経験である。
PMである私が,本チームのリーダを兼務し,メンバ3名とチームを編成する。
第2章 人間的側面の問題と目標の達成を阻害するリスク,対策
2.1 プロジェクトの遂行中に察知した人間的側面の問題
2021年7月にプロジェクトチームが編成され,設備保全システム再構築の要件定義を開始した。また,2022年10月からは,システムリリースに向けて,システムに移行するデータ整備を開始したところ,人間的側面の問題を察知した。
要件定義時に察知した問題は,メンバ内の意見が食い違うことである。送電・変電・通信で設備保全の業務に違いがある。メンバ内の意見の相違はある程度発生すると予想していたが,これほどまで意見の食い違いが起きるとは考えていなかった。
データ整備においては,送電・変電・通信でデータ整備のボリュームが異なっている。変電機器は種類が多く,機器毎の点検項目が多いため,データ整備のボリュームが最も大きい。各分野のデータ整備は,各分野のメンバが実施しているため,変電出身のメンバの負荷が大きくなる。送電・通信出身のメンバは,所定時間内でデータ整備を順調に進めているが,変電出身のメンバは所定時間外にもデータ整備を行っている。各分野のデータ整備は,各分野の担当者しかできないため,メンバ間での助け合いはできていない。
2.2 想定したプロジェクト目標の達成を阻害するリスク
要件定義時に察知した問題を放置しておくと,各分野固有の要件が加わる。それにより,予算と工期が守れなくなるリスクがある。また,業務プロセスの抜本的な見直しを目標としているが,各分野の主張を取り入れていると,目標の達成を阻害するリスクとなる。
データ整備においては,変電出身のメンバの負荷が大きい。現状は所定時間外の対応でカバーしているが,何の対策も取らなければ,変電出身のメンバの体調やメンタルの不調が生じ,データ整備を期日内に終えることができず,最悪の場合,システムリリースが遅延するリスクがある。
2.3 人間的側面の問題への対策
各分野のメンバの意見が食い違う問題への対策のため,プロジェクトの目標を達成するために編成されたチームであることを改めてメンバに説明した。そして,チームで共有する価値観として,メンバの出身分野よりも,プロジェクトの目標である「業務プロセスの抜本的な見直し」を優先することを共有した。
データ整備において,変電出身のメンバの負荷が大きい問題への対策のため,負荷を他のメンバで分散できないか,チームで話し合った。データ整備のコアな部分は各分野の経験者しかできないが,データ整備の付帯業務は他の分野のメンバでもカバーできるとのことであった。チームとしてプロジェクトの目標を達成させるため,送電・通信のメンバに負荷を分散することで,変電出身のメンバの負担を減らすことができた。
第3章 対策の評価,認識した課題,今後の改善点
3.1 対策の評価
要件定義の工程内で,チームのメンバにプロジェクトの目標を優先することを改めて共有した。これにより,業務プロセスの抜本的な見直しができる要件を確定できた。
また,データ整備において,チームメンバで話し合い,メンバ間のフォローができた。これにより,負担の大きかった変電分野のメンバの負担を減らし,予定通りデータ整備を終えることができた。これにより,システムリリースの時期を遵守することができた。
プロジェクト目標を達成できたこと,システムリリースの時期を遵守できたことから,今回の対策は有効であったと評価できる。
3.2 認識した課題と今後の改善点
これまで述べたプロジェクト目標の達成を阻害する問題以外にも,いくつか問題があった。一例としては,各分野のメンバが使う専門用語を理解し合えるまでに時間がかかったことだ。知らない用語,分野によって捉え方が異なる用語もあり,当初,チームのメンバ間で認識の齟齬が生じていた。
今回のようなプロジェクトチーム編成においては,チームビルドの重要性を改めて感じた。今回のプロジェクトで実施した人間的側面の問題への対策は,チームビルドの段階で確実に実施したい。チームのメンバで価値観を共有し,助け合えるようになれば,チームとしての成果が上がるからだ。
また,出身母体の文化の違いについては,分かり合えるような工夫を考えたい。お互いの分野を知るため,メンバ同士の対話の時間を設けることも有効であると考える。
参考文献
- 平成23年度 春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題
更新履歴
- 2023年9月27日 新規作成
- 2023年12月31日 論文案を掲載