業務のデジタル化

令和4年度 春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問2「業務のデジタル化」である。

問題文

近年,紙媒体の管理コストの削減及び業務の効率化を目的とした,情報システムを活用したデジタル化が加速している。デジタル化の実現によって,情報が検索しやすくなったり,モノの動きがリアルタイムに把握できたりすることで業務改善が図れる。

システムアーキテクトは,現行の業務において改善の余地がある業務プロセスを見極めてデジタル化することが求められる。一方,現行の業務をデジタル化した場合に生じる課題を想定し,対応策を検討しておくことも必要である。例えば,りん議業務をリモートワーク環境でも実施できるようにするために,ワークフローシステムを用いて業務をデジタル化する場合,次のように検討する。

  • 従来の印鑑の代替とするために,承認欄にログインユーザの氏名,所属,職位及びタイムスタンプを記録するようにする。
  • 決裁ルートに長期の不在者がいた場合でも,緊急で決裁が必要な案件を円滑に処理するために,代理決裁者を設ける仕組みにする。
  • 情報漏えいや決裁者のなりすましなどのセキュリティリスクに対処するために,アクセス権限管理の強化やログの監視ができるようにする。

また,紙媒体などで運用していた業務をデジタル化すると,業務手順が従来と変わるので,利用者が新しい業務に習熟するまでに時間が掛かることがある。そこで,例えばどの業務で作成されたか判別できるように業務の頭文字で電子文書をアイコン化する,情報システムへのガイド機能を組み込むなど,利用支援の仕組みを工夫する。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わっている業務のデジタル化について,対象業務,情報システムの概要,デジタル化を通じて実現を期待した業務改善の内容を,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた業務改善を実現するために,どのような業務プロセスを,どのようにデジタル化することを検討したか。また,どのような課題があり,どのような対応策を検討したか。800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで検討した内容について,利用者がデジタル化した業務に習熟できるよう,どのように工夫したか。情報システムに組み込んだ利用支援の仕組みを含めて,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

合格論文を書く手順

Step 1 「章立て」を作る

  • 第1章 情報システムの概要
    • 1.1 対象業務及び情報システムの概要
    • 1.2 業務改善の内容
  • 第2章 業務のデジタル化
    • 2.1 デジタル化を検討したプロセス
    • 2.2 業務のデジタル化の課題と対応策
  • 第3章 利用者の習熟支援の工夫
    • 3.1 具体例1
    • 3.2 具体例2

論文案

第1章 情報システムの概要と業務改善の内容

1.1 対象の業務と情報システムの概要

 私が送配電会社の事業部門で開発した「図面管理システム」について述べる。

 送配電会社の事業部門では,変電設備の維持管理を行っている。設備の維持管理のため,設備の図面を適切に管理する必要がある。これまで設備の図面は,紙媒体で管理されていたが,図面管理に関する業務の効率化と業務品質の向上を目指し,図面管理システムを開発した。

1.2 デジタル化を通じて実現を期待した業務改善の内容

 図面管理のデジタル化を通じて実現を期待した業務改善のうち,特に効果が大きい2点について述べる。

 一つ目は,紙媒体の複製図面作成を不要にできることだ。図面管理システム導入前,変電設備の図面は,事業所および変電所の建屋内に紙媒体の複製図面を保管していた。変電設備の更新や改造の都度,図面が変更されるため,それぞれの複製図面を更新する必要があった。

 図面管理システムは,イントラネットに接続されたパソコンからアクセスできる。事業所および変電所の建屋からイントラネットを介してシステムへアクセスし,最新の図面の電子データを閲覧することができる。そのため,複製図面が不要になり,その管理業務と不要となる。

 二つ目は,図面受け渡し業務の効率化だ。変電所の設備工事を施工する協力会社へ図面を貸出し,工事の内容を反映し,返却してもらう。システム導入前は,協力会社の方が,当社の事業所まで出向き,図面を借用していた。

 図面管理システムでは,インターネットを介して,特定の協力会社へ図面の電子データを送受信できるようにしている。そのため,図面借用・返却時の当社事業所への出向が不要となる。

第2章 業務プロセスのデジタル化の課題と対応策

(1)社外の協力会社への図面データ受け渡し

 図面管理システムには,社外の協力会社へ図面の電子データを受け渡す機能があるが,その実現には,以下のような課題があった。

 図面管理システムは,変電設備の図面を管理するため,イントラネットで構築している。一方,社外の協力会社には,インターネットを介して図面管理システムの図面データを受け渡したい。当社のセキュリティポリシー上,社外の協力会社がイントラネットへアクセスすることは認められないため,対策を講じる必要がある。

 対策として,リバースプロキシサーバを設置した。協力会社からのアクセスは,リバースプロキシサーバが図面管理システムへ中継する。これにより,協力会社がイントラネットに直接アクセスせず,図面の電子データを受け渡せるようになった。

 さらに,SSLとWAFを採用し,セキュリティを高め,あらかじめ登録された協力会社以外のアクセスがないか,監視を強化している。

(2)図面貸出簿のワークフロー化

 協力会社と図面受け渡しを行うとき,図面貸出簿を作成している。図面データの受け渡しを図面管理システムで行うのに合わせて,図面貸出簿もデジタル化した。

 従来,図面受け渡しを行うとき,当社の役職者が関与することにしており,その証跡として役職者が持つ印鑑を用いていた。図面貸出簿を電子化において,従来の印鑑に代わる証跡が必要であった。そこで,システムで構築する図面貸出簿のワークフローの承認欄にログインユーザの氏名,所属,職位及びタイムスタンプを記録するようにした。これにより,印鑑に代わる証跡を実現した。

 一方,協力会社への図面貸出は,長期になる場合がある。その場合,図面貸出簿のワークフローにあらかじめ設定した当社の役職者と担当者が異動するケースが想定される。図面貸出簿のワークフローを後任者へ引き継げるよう,役職者と担当者を変更できるようにした。

第3章 利用者がデジタル化した業務に習熟するための工夫

 図面管理システムの利用者が,デジタル化した業務に習熟するための工夫について述べる。

(1)図面貸出簿ワークフローの工夫

 図面貸出簿のワークフローには,2つの工夫を行った。

 一つは,ワークフローの進捗を容易に判別できるようにプログレスバーを配置したことだ。ワークフロー作成,貸出承認,図面修正中,図面審査,返却承認の5つのステータスのうち,どこに該当しているかをプログレスバーに表示した。

 二つ目は,図面貸出簿ワークフローの画面にチップテキストを配置したことだ。チップテキストには,必要な操作を明示する。

 プログレスバーとチップテキストにより,ユーザが現在行っている操作の内容を把握し,次に必要な操作を知ることができる。

(2)新旧図面の比較支援

 協力会社が修正した図面は,協力会社へ工事を発注した部署が審査する。審査では,図面が適切に修正されているかを確認する。図面の電子データをディスプレイに表示するだけでは,修正箇所を見つけるのが大変であった。

 そこで,新旧図面の差分を検出し,新旧図面で変化があった箇所をマーキングする機能を設けた。これにより,利用者が修正箇所を特定しやすくなる。また,修正箇所の過不足がないかを一目で知ることができる。従来は,新旧の紙媒体の図面を重ね合わせ,修正箇所を確認していたが,それに比べて大いに楽になったと評価を得ている。

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