ユーザビリティを重視したユーザインタフェースの設計

令和元年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問1「ユーザビリティを重視したユーザインタフェースの設計について」である。

問題文

近年,情報システムとの接点としてスマートフォンやタブレットなど多様なデバイスが使われてきており,様々な特性の利用者が情報システムを利用するようになった。それに伴い,ユーザビリティの善しあしが企業の競争優位を左右する要素として注目されている。ユーザビリティとは,特定の目的を達成するために特定の利用者が特定の利用状況下で情報システムの機能を用いる際の,有効性,効率,及び満足度の度合いのことである。

優れたユーザビリティを実現するためには,利用者がストレスを感じないユーザインタフェース(以下,UI という)を設計することが重要である。例えば,次のように,利用者の特性及び利用シーンを想定して,重視するユーザビリティを明確にした上で設計することが望ましい。

  • 操作に慣れていない利用者のために,操作の全体の流れが分かるようにナビゲーション機能を用意することで,有効性を高める。
  • 操作に精通した利用者のために,利用頻度の高い機能にショートカットを用意することで,効率を高める。

また,ユーザビリティを高めるために,UI を設計する際には,想定した利用者に近い特性を持った協力者に操作を体感してもらい,仮説検証を繰り返しながら改良する,といった設計プロセスの工夫も必要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが UI の設計に携わった情報システムについて,対象業務と提供する機能の概要,想定した利用者の特性及び利用シーンを,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた利用者の特性及び利用シーンから,どのようなユーザビリティを重視して,どのような UI を設計したか。800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた UI の設計において,ユーザビリティを高めるために,設計プロセスにおいて,どのような工夫をしたか。600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

合格論文を書く手順

Step 1 「章立て」を作る

  • 第1章 情報システムの概要
    • 1.1 対象業務の概要
    • 1.2 提供する機能の概要
    • 1.3 想定した利用者の特性と利用シーン
  • 第2章 UI の設計
    • 2.1 重視したユーザビリティ
    • 2.2 設計した UI
  • 第3章 設計プロセスにおける工夫
    • 3.1 アンケートの実施
    • 3.2 プロトタイプによる試運転
    • 3.3 プロトタイプの改良
    • 3.4 プロトタイプの改良に関して留意したこと

論文案

第1章 UIの設計に携わった情報システム

1.1 対象業務の概要と提供する機能の概要

 私は送配電会社の事業部でシステム企画・開発に従事している。送配電設備の点検において,点検結果を記録するタブレット画面のユーザインターフェース(以下,UI)の設計に携わったことについて述べる。

 これまでは,送配電設備の点検では紙帳票に結果を記録していた。そのため,点検結果のデータを活用するには多大な労力をかける必要がある。送配電設備は高経年化しており,今後,ますます点検結果のデータに基づく合理的な設備保全が必要となってくる。そこで,点検結果をタブレットに入力し,設備保全システムで設備情報と紐づけて点検記録を一元管理する機能を提供する。

 具体的には,点検前,設備保全システムから設備に紐づく点検の項目リスト,前回点検結果をタブレットにダウンロードする。点検中,タブレットに点検結果を入力する。点検後,タブレットから設備保全システムに点検結果をアップロードする。

1.2 想定した利用者の特性および利用シーン

 想定した利用者は,送配電会社の子会社社員である。社員の年齢は20代~60代と幅広く,タブレットの操作に不慣れな社員,慣れている社員がいると想定される。そこで利用者はタブレットの操作に不慣れな社員グループ(以下,Aグループ)と慣れているグループ(Bグループ)に分類した。

 送配電設備の点検において,以下のような利用シーンが想定される。

  • 点検中に過去の点検記録や判定基準の紙媒体を参照する
  • 点検結果を換算する
  • 点検結果の良否判定を行う
  • 点検に合わせて行う手入れ・修理の記録を行う

第2章 UIの設計

2.1 重視したユーザビリティ

 私は,Aグループの利用者に対しては,タブレットで点検記録を入力することに意味があるのかという有効性と使って良かったという満足度を,Bグループの利用者に対しては使用する際の効率性の良さを,それぞれユーザビリティとして設定した。

 Aグループの利用者は,タブレットの画面が使いにくいと,有効性を感じることや満足度を得ることができず,わざわざ使うことはないと使用をあきらめてしまうことが考えられた。せっかくタブレットの画面を開発しても,タブレットが使われなければ点検結果がデジタルデータ化されず,当初の目的が達成されない。

 一方,Bグループの利用者からは,点検結果の入力をタブレットで行えるようにしてほしいというニーズもあり,効率のよく点検結果を入力できる画面を開発することが求められる。

2.2 設計したUI

(1)前回点検結果の参照

 点検を行う利用者にヒアリングしたところ,点検結果を入力するときは,必ず前回の点検結果と比較し,結果の妥当性を確認しているという。そこで,UIの設計では前回点検結果を参照しやすいように工夫する。具体的には,点検結果の入力フィールドに前回点検結果をあらかじめ入力しておく。これにより,入力前に必ず前回点検結果と見比べることができる。

(2)点検記録の自動換算

 点検記録の中には,値を換算し,換算値で妥当性を判断する場合がある。例えば,変圧器本体の油面は,油面計の読み値と現在の油温の読み値を用いて,油温が20度のときの油面に換算する。これまでは,電卓を用いて換算していたが,ユーザ負担軽減のため自動で換算できるようUIを設計する。具体的には,設備保全システムの点検項目に換算式を登録しておき,点検記録を自動換算するようにした。

(3)点検記録の良否判定

 点検記録の中には,良否判定が必要なものがある。従来は判定基準を参照し,良否を判定していたが,良否判定を自動で行うようUIを設計する。具体的には,設備保全システムの点検項目に判定基準を登録しておく。点検記録を入力したとき,判定基準内であれば良,判定基準外であれば否を自動的に表示するようにした。これにより,ユーザが判定基準を確認することは不要となる。

(4)手入れ・修理事項の記録

 点検実施中,変電設備の手入れ・修理を行うことがある。従来は,手入れ・修理の報告書を別途作成していたが,タブレットで報告できるようにUIを設計する。具体的には,点検項目ごとに手入れ・修理の内容を入力できるようにする。これにより,どの点検項目で手入れ・修理を行ったかという情報を人手で入力する必要がなくなる。また,タブレットで撮影した写真を添付できるようにすることで,点検時にデジタルカメラを持参する必要がなくなった。

第3章 設計プロセスにおける工夫

3.1 UIガイドラインの制定

 送配電会社の事業部がタブレットのユーザビリティを検討するのは初めてであった。そのため,開発者やユーザによって,UIに関する意見の相違が予想された。そこで,UI設計に着手する前,UIガイドラインを制定した。

 UIガイドラインを制定するため,UIに関する文献等の調査を行うことにした。調査結果を参考に点検結果を入力するタブレット画面に必要なUIの基本事項をまとめたガイドラインを制定した。制定したガイドラインは,開発者やユーザにレビューした上で制定しているため,個々のUIにおける開発者やユーザの意見の相違により,UI設計が進まない事態は回避できた。

 また,UIガイドラインはナレッジとして今後も活用可能である。

3.2 プロトタイプ作成

 制定したUIガイドラインをもとに,点検結果を入力するタブレット画面のプロトタイプを作成した。そして,プロトタイプを用いて実際の利用者に点検結果の入力を体験してもらった。

 Aグループの利用者には,有効性を感じることや満足度が得られているかを確認した。Bグループの利用者には,効率よく点検結果を入力できるかを確認した。UIに関する文献調査の結果を参考にUIガイドラインを制定していたが,初回のプロトタイプでは利用者のユーザビリティを満たすことができなかった。Aグループ,Bグループそれぞれにヒアリングを行い,UIの見直しを行い,ガイドラインの改訂を行い,プロトタイプの改良を実施した。

 利用者の体験を複数回繰り返すことで,Aグループ,Bグループ双方の利用者から実用に耐えられると評価され,本運用に至ることができた。

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