要求を実現する上での問題を解消するための業務部門への提案

平成25年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問1「要求を実現する上での問題を解消するための業務部門への提案について」である。

問題文

情報システムの開発における要件定義では,業務を担当する部門(以下,業務部門という)からの要求を,どのように情報システムを活用して実現するかを検討する。しかしその過程で,次のような,要求を実現する上での問題が発生する場合がある。

  • 処理時間が長くなり,求められている時間内に終了しないことが明白である。
  • データを必要なタイミングで取得できない。
  • コストに見合った効果が得られない。

システムアーキテクトは,このような問題を解消又は軽減するために,コストや納期と,業務上の効果とを総合的に検討した上で,業務部門に,例えば次のような提案をする。

  • 処理時間が長くなる場合,業務に影響の少ない範囲で月次処理の一部を事前に行うなど,業務処理の単位を見直して,情報システムで対応する。
  • 経費関連の数値が月次でしか取得できない場合,日次決算では実績から算出したみなしの数値を利用するという業務ルールを提示し,情報システムもこれに対応する。
  • コストに見合った効果が得られない場合,一部の業務機能をシステム化の対象から除外し,情報システムによらない対応策を提示する。

また,提案の際,業務部門が提案の採否を判断しやすいように,コストや納期に加えて,業務の特性及びシステム化の目的を踏まえた評価項目などを提示し,業務上の効果について,提案を採用する場合としない場合とを対比することも重要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった情報システムの要件定義について,その概要を,開発の背景,対象の業務,業務部門からの要求を含めて,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた要件定義で,要求を実現する上でどのような問題が発生したか。また,その問題を解消又は軽減するために,業務部門にどのような提案をしたか。業務や情報システムでの対応を中心に,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた提案の中で,業務部門が提案の採否を判断しやすいように提示した評価項目などと,提案を採用する場合としない場合とを対比して評価した業務上の効果,及びその評価結果について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

合格論文を書く手順

Step 1 「章立て」を作る

  • 第1章 私が携わった情報システムの要件定義について
    • 1.1 情報システムの開発の背景
    • 1.2 対象の業務と業務部門からの要求
  • 第2章 要求実現上の問題と解決策の提案内容について
    • 2.1 要件定義において発生した要求実現上の問題
    • 2.2 業務部門に提案した問題解消策の提案内容
  • 第3章 提示した評価項目と業務上の効果,評価結果について
    • 3.1
    • 3.2

論文案

第1章 私が携わった情報システムの要件定義

1.1 開発の背景

 私は送配電会社の事業部門において,設備の原図を管理するシステム(以下,原図管理システム)の要件定義に携わったことについて述べる。

 送配電会社の事業部門では,電力を安定的に供給するため,送変電設備を維持管理している。送変電設備の図面の多くは紙媒体で管理されており,原図の貸出や返却に伴う物理的な移動のムダが発生している。また,原図と現場の設備との相違に起因するトラブルがしばしば発生している。

1.2 対象の業務

(1)原図管理業務

 送変電設備の原図を管理する業務である。設備が新設されると,どの設備の原図かわかるように保管する。また設備工事に伴い,設備が改造されたときは,当該設備の原図の修正を修正し,設備と一致するようにする。また,廃止された設備の原図は,速やかに廃棄する。

(2)原図の貸出・返却業務

 原図の貸出・返却業務である。設備工事に伴う原図の修正は,設備工事を施工する協力会社が行う。そのため,原図を管理する事業所は,協力会社へ原図を貸し出す。協力会社はその原図を修正し,原図を事業所へ返却する。返却された原図は,適切に修正が行われているか審査した後,原図として管理される。

1.3 業務部門からの要求

 原図管理システムの要件定義において,業務部門からの要求のうち,要求を実現する上での問題が発生したもの3つについて述べる。

  1. 原図修正前後の原図を比較して,原図の修正箇所をわかりやすく表示してほしい。
  2. 上位図面と下位図面を紐づけられるようにしてほしい。
  3. キャリア回線を介して,スマートデバイスから原図を閲覧できるようにしてほしい。

第2章 要求を実現する上での問題と業務部門への提案

2.1 要求を実現する上での問題

(1)新旧原図の差分表示

 新旧原図の差分表示を行うためには,新たに機能を開発する必要がある。その開発コストを見積もると,新旧原図を差分表示することで得られる効率化効果よりもはるかに大きく,開発コストが回収できない。

(2)上位図面と下位図面の紐づけ設定

 上位図面と下位図面の紐づけ設定を行うためには,システムへの原図情報入力が煩雑になる。システムへ原図登録を行う初期段階から,煩雑な入力を求めると,原図登録が進まないおそれがある。

(3)キャリア回線を介したスマートデバイスでの原図閲覧

 キャリア回線を介したスマートデバイスでの原図閲覧は,技術的には可能である。しかし,原図管理システムはパソコン画面での使用を想定されており,スマートデバイスで原図閲覧をする画面を新規に開発する必要がある。

2.2 業務部門への提案

(1)新旧原図の差分表示

 コストに見合った効果が得られないため,新旧原図の差分表示の機能をシステムの対象から除外する。代替機能として,新旧の原図を別ウィンドウに表示させ,パソコン画面上で比較できるようにする。

(2)上位図面と下位図面の紐づけ設定

 上位図面と下位図面の紐づけ設定は,原図登録の負担が増えるが,その負担に見合った効果が得られないため,機能をシステム化の対象から除外する。代替機能として,設備管理システムの設備台帳と原図情報を紐づけることにする。設備台帳では,上位設備と下位設備の紐づけられているため,それを採用する。

(3)キャリア回線を介したスマートデバイスでの原図閲覧

 キャリア回線を介したスマートデバイスでの原図閲覧を可能にすることで得られる効率化効果は,原図管理システムに登録されている原図の登録数に比例する。原図管理システム導入当初は,原図がほとんど登録されていないため,スマートデバイスで原図閲覧できる対象は限られる。そのため,この機能は開発時のシステム化の対象から除外し,将来のシステム改修の対象にする。

第3章 評価項目,業務上の効果,評価結果

3.1 提案した評価項目

 システム化を検討した機能ごとに,開発・運用費用,業務上の効率化効果,開発の難易度,運用の難易度の項目で評価する。開発・運用費用と業務上の効率化効果は,金額で評価する。開発・運用の難易度は,難しい・普通・易しいの3段階で評価し,開発・運用費用の妥当性の根拠とする。

 また,開発・運用費用,業務上の効率化効果は,システム導入から5年間において,NPV法で評価する。具体的には,5年間でシステム開発・運用費用を回収できるか,を評価する。

3.2 業務上の効果 

 業務上の効果は,システム化を検討した機能ごとに業務上の効率化効果を算定する。機能を採用する場合としない場合とを比較し,効率化効果を見積もる。効率化効果は,その機能により効率化できる業務時間(人時)として見積り,それを金額に換算し,評価の項目として用いる。

3.3 評価結果

 新旧原図の差分表示,上位図面と下位図面との紐づけについて,NPV法で評価したところ,業務上の効率化効果が小さく,5年間で開発・運用費用を回収できないため,システム化の対象から除外する。

 一方,キャリア回線を介したスマートデバイスでの原図閲覧は,システム開発後5年間では開発・運用費用を改修できない。全ての原図が登録されて以降に開発すれば,効率化効果が大きくなるため,5年で改修が可能である。よって,将来のシステム化の対象として計上することにした。

要求を実現する上での問題を解消するための業務部門への提案” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です