業務の変化を見込んだソフトウェア構造の設計

平成24年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問1「業務の変化を見込んだソフトウェア構造の設計について」である。

問題文

企業を取り巻く環境の変化に応じて,業務も変化する。情報システムには,業務の変化に対応して容易に機能を変更できるような,ソフトウェア構造の柔軟性が求められる。

このため,システムアーキテクトは,システム要件定義の段階から,業務の変化が起こり得るケースを想定し,変化の方向性やシステムに与える影響を予測する。ソフトウェア構造の設計では,その予測に基づいて,業務が変化してもシステム全体を大きく作り直す必要がないように考慮しなければならない。

例えば,次のようにソフトウェア構造の設計を行う。

  • 業務フローの制御部分と業務ロジック部分を分離する。
  • 業務ロジックが互いに疎結合となるように分割する。
  • データアクセスコンポーネントを共通化する。

その際,そのような設計を行うことによって引き換えに生じた課題に対応するための工夫を行うことが重要である。例えば,処理時間が長くならないように複数のプロセスを並行して処理したり,処理同士の整合性を確保するために排他制御の仕組みを用意したりする。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたがソフトウェア構造の設計に携わったシステムにおける,対象業務の概要及び特徴について,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたシステムについて,どのような業務の変化を想定したか。また,業務が変化してもシステム全体を大きく作り直す必要がないように,どのようなソフトウェア構造を設計したか。800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べたソフトウェア構造の設計において,生じた課題とそれに対応するために重要と考えて工夫した内容,及び設計したソフトウェア構造に対するシステムアーキテクトとしての評価について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

合格論文を書く手順

Step 1 「章立て」を作る

  • 第1章 対象業務の概要と特徴
  • 第2章 想定した業務の変化とソフトウェア構造の設計について
    • 2.1 想定した業務の変化
    • 2.2 ソフトウェア構造の採用
  • 第3章 ソフトウェア構造の設計における課題と工夫,評価について
    • 3.1 設計で生じた課題と対応するための工夫
    • 3.2 設計したソフトウェア構造に対する評価

論文案

第1章 対象業務の概要及び特徴

1.1 対象業務の概要

 私は送配電会社の設備部門で,システムの企画・開発に携わっている。設備部門では,変電設備の維持・管理を行っている。今回,変電設備の巡視や点検といった保全業務に必要な巡視・点検システムの開発に携わったことについて述べる。

 変電設備の日常巡視や定期点検では,設備毎に定められた巡視項目や点検項目に基づき,項目ごとにを良否や数値記録を行う。項目ごとに記録した情報は,設備が適切に管理されているか,という観点で用いられ,設備更新や設備修繕の計画の策定に利用される。

1.2 対象業務の特徴

 巡視や点検時,紙媒体の様式に巡視結果や点検結果を記録する。結果を記録した帳票は,巡視報告書または点検報告書と呼ばれる。巡視や点検が完了すると,巡視報告書や点検報告書を作成し,管理者がそれを承認することで記録が確定する。

 必要に応じて,巡視報告書や点検報告書に記載された記録をエクセル等に転記し,記録の分析を行う場合もあるが,記録の転記は大変な負担である。また,設備毎に定められた巡視項目や点検項目は,しばしば見直されることがある。

 さらに,高度経済成長期に建設された変電設備は高経年化を迎えており,巡視や点検記録に基づく,適切な設備更新や設備修繕の計画を策定していくことが,今後,ますます重要になる。

第2章 想定した業務の変化とソフトウェア構造の設計

2.1 想定した業務の変化

(1)高経年化設備更新ガイドライン

 電力広域的運営推進機関は,2021年10月,高経年化した設備の更新の基本的な考え方を定めた「高経年化設備更新ガイドライン」を策定した。現行のガイドラインでは,リスク量を算出する対象の設備は,変圧器,遮断器のみであるが,将来,キュービクル,断路器,リレー・TC類,リアクトル類,コンデンサ等に広げていくことが明記されている。

 また,ガイドラインでは点検・測定結果等のヘルススコア係数の設定項目が定められている。この項目の見直しにより,巡視項目や点検項目が見直される可能性がある。

(2)巡視・点検の合理化

 送配電会社では,カイゼン・改革・DX推進を核とした業務の効率化・高度化に取り組んでいる。巡視・点検においても効率化・高度化が行われ,巡視・点検の項目が見直される可能性がある。

(3)巡視・点検用スマートデバイスの更新

 巡視・点検においては,スマートデバイスを用いて,巡視・点検記録を入力する。このデバイスの耐用年数は数年であるため,数年に1回の頻度でスマートデバイスは更新される。

2.2 ソフトウェア構造の設計

 想定した業務の変化に対応するため,ソフトウェア構造の設計において,MVCモデルを採用する。本システムにおける業務ロジックのModel,情報表現のView,制御のControllerは以下のとおりである。

  • Model:設備保全システムの巡視・点検項目,巡視・点検記録
  • View:スマートデバイスにおける巡視・点検記録の入力画面
  • Controller:設備保全システムとスマートデバイスとの間で,巡視・点検項目,巡視・点検記録を連携するシステム

 MVCを採用することで,想定した業務の変化には以下のように対応する。

(1)巡視・点検項目の変更

 高経年化設備更新ガイドラインの改訂や巡視・点検の合理化に伴う,巡視・点検項目の変更では,Modelのみ変更する。具体的には,設備保全システムに登録されている巡視・点検項目を変更する。

(2)巡視・点検用スマートデバイスの更新

 スマートデバイスの更新では,Viewのみ変更する。具体的には,更新するスマートデバイスに合わせて,巡視・点検記録を入力する画面を開発する。

第3章 生じた課題,工夫した内容,評価

3.1 生じた課題とそれに対応するために工夫した点

(1)巡視・点検項目マスタの整備

 変電設備は多数存在するため,設備毎に巡視・点検項目を設定するのは大変な労力がかかる。そのため,変圧器や遮断器等の設備種別毎の巡視・点検項目マスタと設備毎の巡視・点検項目マスタに分離する。

(2)スマートデバイス用View

 スマートデバイス用の巡視・点検記録を入力する画面開発の生産性向上,品質の担保するため,UIガイドラインを策定した。UIガイドラインでは,様々な端末(OSやディスプレイの違い)に対応できるよう柔軟な画面を指向した。

3.2 システムアーキテクトとしての評価

(1)巡視・点検項目のマスタ整備

 設備種別毎に抽象化した巡視・点検項目のマスタを導入することで,設備毎の巡視・点検項目マスタを整備する負担を軽減できたことは評価できる。また,設備種別毎の巡視・点検項目マスタを変更したとき,設備設備毎の巡視・点検項目マスタへ継承するようにして,マスタ変更の負担を軽減する。

(2)UIガイドライン

 スマートデバイスにおける巡視・点検記録を入力する画面の生産性向上,品質の担保につながった。UIガイドラインでは,様々な端末に対応できるよう柔軟な画面を指向しているため,将来のスマートデバイス更新時のView変更を最小限にできるため,コスト低減を実現できた。

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