複数のシステムにまたがったシステム構造の見直し

平成23年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問1「複数のシステムにまたがったシステム構造の見直しについて」である。

問題文

近年,情報システムへの要求は,事業統合に伴う業務システムの統合や,事業を横断した顧客動向の把握など,複数のシステムに関連するものが増える傾向にある。それらの要求に対応するとき,機能やデータの配置などのシステム構造を全体最適の観点から対象となる全システムにまたがって見直し,機能追加の容易性の確保や変更時の影響範囲を狭めることも重要である。

このような複数のシステムにまたがったシステム構造の見直しにおいて,システムアーキテクトは,例えば,次のような視点から業務とシステムを分析する。

  • 新たな商品やサービスに対応する際の変更箇所や変更方法の傾向
  • システムによる機能の配置の違い
  • データの配置や流れ

分析の結果に基づき,複数の類似した機能及びデータを共通化するために,コンポーネントの分割・統合を実施したり,マスタファイルを各ファイルから分離・統合したりすることなどを検討し,システム構造を見直す。多くの場合,考えられるシステム構造は複数あり,それぞれにメリットやデメリットがあるので,そのメリットを生かすとともにデメリットの軽減方法を検討した上で,新しいシステム構造を選定する。

例えば,システム間の接続が複雑化してしまう場合には,複雑化を解消するために,連携基盤を採用して各システムをハブ型に接続する。統合しようとするマスタファイルのコード体系が異なる場合には,互いのデータを関連付けるために,新たなコード体系を定義して新旧のコードの相互変換を可能にする。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった複数のシステムにまたがったシステム構造の見直しについて,見直しの背景と概要,対象になった複数のシステムの概要を 800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたシステム構造の見直しにおいて,業務とシステムをどのような視点から分析し,どのような新しいシステム構造を選定したか。メリットなどの選定理由とともに,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた新しいシステム構造には,どのようなデメリットがあり,どのような軽減方法を検討したか。600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 複数のシステムにまたがったシステム構造の見直し

1.1 見直しの背景と概要

 私は,送配電会社の設備部門で,情報システムの企画・開発に従事している。送配電会社では,カイゼン・改革・DX推進を核とした業務の効率化と高度化を進めており,設備部門の基幹システムである設備保全システムの抜本的な改修を行うことになった。

 一方,設備保全システムの関連システムである巡視システム,点検システムは,ハードウェア更新に伴うリプレース時期を迎えていた。

 そこで,設備保全システムの再構築に合わせ,巡視システムと点検システムを統廃合することになった。

1.2 対象になった複数のシステムの概要

 設備保全システムは社内システムとして運用され,設備情報,設備保全計画,設備異常懸案を管理している。

 巡視システムは,設備の日常巡視を支援するシステムである。具体的には,巡視出向前にモバイルコンピュータの巡視端末に巡視項目や過去の巡視記録を送信する。巡視中は,巡視端末に巡視記録を入力する。帰所後,巡視システムは巡視端末から巡視記録を受信する。

 点検システムは,設備の点検記録を保管するためのデータベースである。設備の点検は,直営,グループ会社,または,請負会社で実施する場合がある。点検記録は,直営またはグループ会社で実施した点検は,電子帳票で点検システムに保管する。請負会社で実施した点検の場合,点検報告書を受領し,点検システムに保管する。

第2章 業務とシステムを分析した視点,選定した新しいシステム構造

2.1 業務とシステムを分析した視点

(1)システムによる機能配置

 送配電会社の保有する設備は高経年化しており,電力の安定供給に資する設備を適切に維持していくためには,アセットマネジメントの考え方を導入する必要がある。アセットマネジメントの検討には,設備保全システムの設備情報に加えて,設備の状態を示す巡視記録,点検記録が必要である。しかし,これらのデータは,別々のシステムで保管されているため,人手によるデータ統合の作業が必要である。また,点検システムに保管される点検記録は,任意のフォーマットで登録されているため,コンピュータが値を機械的に判読できない。

(2)データの流れ

 巡視や点検で設備の異常を発見した場合,巡視報告書,点検報告書の作成に合わせ,設備保全システムの異常懸案を入力する。このとき,いつの巡視・点検で発見したのか,異常の箇所や内容を人手で入力する必要があり,業務の負担となっている。また,巡視や点検で異常を発見しても,異常懸案の入力が行われない可能性もある。

2.2 選定した新しいシステムの構造

 新しいシステムの構造として,設備保全システムに巡視システムと点検システムを統合する。それにより,システムの機能配置,データの流れを以下のように見直す。

(1)システムの機能配置

 設備保全システムに,巡視・点検項目,巡視・点検記録の機能を配置する。これにより,設備情報と巡視・点検記録を一元的に管理できる。一元化されたデータを基に,アセットマネジメントの検討が実施でき,人手によるデータ統合が不要になる。

(2)データの流れ

 巡視や点検において,設備の異常があったとき,設備異常懸案を自動で起票できるようにする。具体的には,巡視記録や点検記録に異常がある場合,設備保全システムで設備異常懸案を自動起票する。そのとき,以下の項目は自動で入力できるようにする。

  • 異常を発見した日
  • 異常を発見した動機(巡視または点検)
  • 異常の部位(巡視・点検項目は,設備の部位ごとに定めているため,異常の部位を特定できる)
  • 異常の内容(巡視・点検項目の異常)

 これにより,設備異常懸案を作成する業務を効率化することができる。また,巡視や点検で発見された異常は,自動的に設備異常懸案が起票されるため,起票漏れを防ぐことができ,業務の品質向上を実現する。

第3章 新しいシステム構造のデメリットとデメリット軽減方法の検討

3.1 新しいシステム構造のデメリット

 巡視や点検は,現地で実施するため,社内システムである設備保全システムは使用できない。設備保全システムを使うためには,通信機器と端末準備する必要があるが,セキュリティの考慮も必要となり,コストがかかる。

 また,設備保全システムで巡視・点検の記録を入力する画面を開発するのにもコストがかかる。さらに,巡視・点検の項目に変更される都度,画面の改修も必要となる。

3.2 デメリット軽減方法の検討

 前述のデメリットを軽減するため,設備保全システムと巡視・点検記録の入力インターフェースを分離する。また,巡視・点検項目の変更のたびに,画面を改修することを回避するため,MVCモデルを採用する。

  • Model:設備保全システムの巡視・点検項目,巡視・点検記録
  • View:巡視・点検記録を入力するスマートデバイスの画面
  • Controller:設備保全システムの巡視・点検項目,巡視・点検記録をスマートデバイスへ連携するシステム

 また,巡視・点検へ出向する前に,スマートデバイスに巡視・点検項目,巡視・点検記録をダウンロードしておく。帰所後,スマートフォンに入力した巡視・点検記録を設備保全システムへアップロードする。これにより,オフラインでも巡視・点検の記録を入力可能となる。

 設備保全システムとスマートフォンを連携するシステムが必要となるが,デメリットを軽減できるため,これを採用した。

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