システム間連携方式

平成22年度 秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅱ 問題 問2「システム間連携方式について」である。

問題文

生産システム,物流システム,販売システムなどの企業内システムは,部門ごとに独立したシステムとなっている場合がある。このため,販売システムで発生する顧客データを物流システムに渡して最新の顧客情報で出荷伝票を出力する,販売システムで発生する販売データを生産システムの在庫情報に反映して迅速に生産計画を決定するなど,企業内の情報共有をシステム間連携によって実現することがある。システム間連携方式には,ファイル転送,データベース共有,リアルタイム連携などがある。

システムアーキテクトは,システム間連携方式を選択する際に,例えば,次のような業務要件に留意しなければならない。

  • 当日登録した顧客情報に基づいて,当日配送を可能とする必要がある。
  • 生産数の確定前に,拠点ごとの在庫数を確定する必要がある。

これらの業務要件を踏まえ,データの収集と反映のタイミング,処理すべきデータ量などのシステム要件を明確にする。その要件に基づき,データ伝送時間,システム間の整合性の維持などを考慮して,適切なシステム間連携方式を選択する。

さらに,運用時間帯,運用体制などの運用要件を明らかにし,稼働状況のモニタリング,異常の検知,障害発生時の対応などの実現方法を検討することも重要である。

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わったシステム間連携方式の検討において,対象の概要と連携が必要になった背景について,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたシステムを連携させる際に,あなたは,どのような業務要件を踏まえ,どのようなシステム要件を明確にしたか。また,その要件に基づいてどのようなシステム間連携方式を選択したか,選択した理由とともに,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べたシステム間連携方式について,運用要件と実現方法を,重要と考えた点を中心に,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

論文案

第1章 私が携わったシステム間連携方式の検討

1.1 対象システムの概要

 私は送配電会社の設備部門で,業務システムの企画・開発に従事している。今回,送配電会社が保有する設備の図面を管理する図面管理システムの企画・開発に携わった。

 図面管理システムは,設備保全システム,Active Directory(以下,AD)と連携しているおり,それらの概要について述べる。

 送配電会社の重要な業務である設備保全業務を支援するため,設備保全システムを運用している。設備保全システムでは,送配電会社が保有する設備の情報を管理する設備台帳等の機能を有する。

 また,送配電会社のADでは,従業員全員の所属情報等が管理されている。

1.2 連携が必要となった背景

 送配電会社の図面管理において,稼働している設備の図面を適切に管理することが重要である。設備が廃止された場合,廃止設備の図面は不要となるため,廃棄する必要がある。もし,廃止設備の図面が廃棄されなかった場合,稼働設備の図面と取り違え,設備保全の支障となる可能性もある。その一方,設備が廃止された都度,人手により図面管理システムの図面データをメンテナンスをするのは手間である。

 図面管理システムでは,システムのユーザの所属により,閲覧できる図面を限定している。また,送配電会社では,毎年7月に定期異動があり,全従業員の3割程度が異動となる。図面管理システムのユーザの所属が変わった場合,即時に所属を変えなければ,本来,閲覧できてはならない図面が閲覧でき,情報セキュリティ上のリスクとなる。また,定期異動の都度,図面管理システムのユーザの所属を人手で変更するのは,システム管理者の負担となる。

第2章 システム要件の明確化と選択したシステム間連携方式

2.1 システム要件の明確化

(1)設備情報との連携要件

 図面管理システムの要件として,建設中または稼働中の設備の図面を管理できることが求められる。また,廃止された設備の図面は,自動的に論理削除したい。

 上記の要件を実現するため,設備保全システムの設備情報と連携することにした。この設備情報には,建設仮勘定設備,稼働設備,廃止設備のステータスがあり,これを活用する。また,設備保全システムの設備情報が変更された翌日には,図面管理システムと連携する。なお,図面管理システムの要件に必要な項目を設備保全システムの全ての設備の設備情報を抽出すると,数十MBである。

(2)ユーザ情報との連携要件

 図面管理システムを利用するとき,ユーザの最新の所属情報を保有する必要がある。

 ユーザの所属情報は,社内のADより取得する。反映のタイミングは,図面管理システムへユーザがログインしたタイミングとする。所属コードは半角英数字4文字,所属名は日本語20文字であり,処理すべきデータ量は数十バイトである。

2.2 選択したシステム間連携方式

(1)設備保全システムとの連携方式

 設備保全システムの設備情報の更新頻度は多くない。また,設備情報のステータスが廃止設備に変更されたとしても,即時に図面管理システムで図面を論理削除することは不要である(翌日に論理削除されれば十分である)。よって,システム間連携方式には,ファイル転送方式を採用した。この方式は,他のシステムとの連携方式でも採用されており,その設計書やプログラムの一部が流用可能であり,開発コスト低減の観点でも優位であった。

(2)ADとの連携方式

 送配電会社の従業員の最新の所属はADで管理されている。ADでは,定期異動のときも,異動発令日に所属情報が更新される。一方,図面管理システムでは,ユーザが図面管理システムを利用するときに最新の所属情報を取得できればよい。そこで,ADとの連携方式は,データベース共有を採用する。

第3章 システム間連携方式の運用要件と実現方法

(1)設備情報の連携

 設備保全システムの設備情報とのシステム間連携は,以下のように行う。

  1. 設備保全システムの利用可能時間(22時)終了後,図面管理システムに連携するための設備情報連携ファイルを作成する。連携ファイルとして抽出するのは,設備情報のステータスが建設仮勘定設備,稼働設備のものとする。
  2. 設備情報連携ファイル作成完了後(翌1時),図面管理システムは設備保全システムから設備情報連携ファイルをダウンロードする。
  3. 設備情報連携ファイルダウンロード後,次のように図面管理システムの設備マスタの更新を行う。
    • 連携ファイルに設備情報がある場合,図面管理システムに設備マスタがあれば更新し,設備マスタがなければ新規作成する。
    • 連携ファイルに設備情報がない場合,図面管理システムに設備マスタがあれば論理削除し,設備マスタがなければ何もしない。

 上記のように,連携ファイルの設備情報をもとに図面管理システムの設備マスタの更新を行うが,設備保全システムで設備情報のステータスを廃止すると,図面管理システムの設備マスタを論理削除することで,廃止設備の図面がデフォルトでは閲覧できなくできる。

(2)ユーザ情報の連携

 ADの所属情報との連携は,次のように行う。

  1. 図面管理システムへユーザがログインする。
  2. ADの所属情報を,図面管理システムのユーザマスタの所属情報へ反映する。

 上記により,図面管理システムを利用するときは,最新の所属情報となる。ADの所属情報は,定期異動の発令日に反映されるため,定期異動後は前所属で図面管理システムへログインできない。これにより,図面管理システムで管理する図面の閲覧先は,適切に管理される。

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