システム開発プロジェクトにおけるコスト超過の防止

プロジェクトマネージャ(PM)には,プロジェクトの計画時に,活動別に必要なコストを積算し,リスクに備えた予備費などを特定してプロジェクト全体の予算を作成し,承認された予算内でプロジェクトを完了することが求められる。

プロジェクトの実行中は,一定期間内に投入したコストを期間別に展開した予算であるコストベースラインと比較しながら,大局的に,また,活動別に詳細に分析し,プロジェクトの完了時までの総コストを予測する。コスト超過が予測される場合,原因を分析して対応策を実施したり,必要に応じて予備費を使用したりするなどして,コストの管理を実施する。

しかし,このようなコストの管理を通じてコスト超過が予測される前に,例えば,会議での発言内容やメンバの報告内容などから,コスト超過につながると懸念される兆候を PM としての知識や経験に基づいて察知することがある。PM はこのような兆候を察知した場合,兆候の原因を分析し,コスト超過を防止する対策を立案,実施する必要がある。

設問

設問ア

あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴と,コストの管理の概要について,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べたプロジェクトの実行中,コストの管理を通じてコスト超過が予測される前に,PM としての知識や経験に基づいて察知した,コスト超過につながると懸念した兆候はどのようなものか。コスト超過につながると懸念した根拠は何か。また,兆候の原因と立案したコスト超過を防止する対策は何か。800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで述べた対策の実施状況,対策の評価,及び今後の改善点について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

出題趣旨

プロジェクトマネージャ(PM)には,プロジェクトの計画時に,活動別に必要なコストを積算し,リスクに備えた予備費などを特定してプロジェクト全体の予算を作成し,承認された予算内でプロジェクトを完了することが求められる。

本問は,プロジェクトの実行中に,コストの管理を通じてコスト超過を予測する前に,コスト超過につながると懸念される兆候を PM としての知識や経験に基づいて察知した場合において,その兆候の原因と立案したコスト超過を防止する対策などについて具体的に論述することを求めている。論述を通じて,PM として有すべきコストの管理に関する知識,経験,実践能力などを評価する。

論文設計

章立て

  1. プロジェクトの特徴とコスト管理の概要
    • プロジェクトの特徴
    • コスト管理の概要
  2. コスト超過の兆候と根拠および防止対策
    • コスト超過につながる兆候とその根拠
    • コスト超過の兆候の原因と防止対策
  3. 対策の実施状況と評価および今後の改善点
    • 対策の実施状況と評価
    • 今後の改善点

論文案

第1章 プロジェクトの特徴とコスト管理の概要

1.1 プロジェクトの特徴

送配電事業を営むA社の事業部門で使用している設備保全システムの再構築プロジェクトに事業部門のプロジェクトマネージャ(PM)として参画したことについて述べる。

このプロジェクトの要件定義工程(6か月)はシステムベンダーへ準委任で契約している。基本設計工程以降(21か月)は,要件定義の結果に基づいて算出した工数で,システムベンダーへ一括請負で契約している。

設備保全システムの再構築のスコープが広いため,作業計画領域,巡視点検領域,工事領域の3つの領域に分割してプロジェクトを推進する。なお,3つの領域には,事業部門側の要件を取りまとめ,設計の承認を行うため,領域リーダーを配置する。

1.2 コスト管理の概要

要件定義工程,基本設計工程以降それぞれのコスト管理の概要について述べる。

(1)要件定義工程

要件定義工程に着手する前,設備保全システム再構築プロジェクトの概算予算10億円を計画していた。そのため,要件定義工程におけるコスト管理は,開発工数が増えて概算予算10億円を超過しないかという観点で行う。開発工数の見通しは,週1回,システムベンダーのPMと開催している進捗会議において提示される機能数で管理する。なお,機能数は3領域に分けて提示してもらう。

(2)基本設計工程以降

基本設計工程以降は,一括請負契約を締結した。契約した請負費は9.8億円(減額した0.2億円は予備費)である。基本設計工程以降のコスト管理では,請負費を超過しないよう管理する。基本設計以降で,請負費が超過する可能性があるのは,設計変更が必要になる場合である。そこで,設計変更管理を行い,変更が必要か否か,変更が必要な場合は工数をシステムベンダーより提示してもらう。設計変更の必要性を判断した上で,プロジェクト責任者の承認を受けて,変更を行う。

第2章 コスト超過の兆候と根拠および防止対策

2.1 コスト超過につながる兆候とその根拠

要件定義工程,基本設計工程以降のそれぞれで,コスト超過につながる兆候とその根拠について述べる。

(1)要件定義工程

要件定義工程において,作業計画領域の機能数が毎週の進捗会議のたびに増加していることが報告された。そこで,作業計画領域のリーダーにヒアリングしたところ,要件定義を進めたところ,業務の運用に必要な要件が追加されたため,機能数が増えているとのことであった。

(2)基本設計工程以降

基本設計工程以降では,工事領域の機能の設計変更が立て続けに上がってきた。工事領域のリーダーにヒアリングしたところ,要件定義した機能の詳細を検討したところ,機能の実現には,設計変更が必要とのことであった。

2.2 コスト超過の兆候の原因と防止対策

(1)要件定義工程

要件定義工程における作業計画領域の機能数増加(コスト超過)の原因を調査したところ,作業計画領域のスコープが明確になっておらず,要件定義を進めるうちにスコープが拡大していることが判明した。

一旦,作業計画領域の要件定義をストップし,作業計画領域のリーダーにスコープを明確にするよう指示した。作業計画領域のリーダーが見直したスコープを領域のメンバ,システムベンダーに共有し,理解を得た。これにより,要件定義を再開した。

(2)基本設計工程以降

基本設計工程以降,工事計画領域で変更管理が立て続けに上がってきた原因を調査した。工事領域の要件定義での検討不足が原因であり,基本設計を進めるうちに検討不足が顕在化してきたとのことであった。

工事領域の要件定義を実施したリーダーとメンバーは同じため,要件定義の検討不足による変更は,今後も必要になると想定された。そこで,工事領域の機能の変更が必要な場合の対応を予め定めておくことにした。

変更が必要になった時点で,他の機能への影響,変更工数を概算でよいのでシステムベンダーより提示してもらう。他の機能への影響が小さく,変更工数が大きいものは,変更しないよう方針を定めておくことで,コスト超過を未然に防止する。

第3章 対策の実施状況と評価および今後の改善点

3.1 対策の実施状況と評価

(1)要件定義工程

作業計画領域のスコープを明確にして以降,機能の追加は減った。スコープを明確にしておくことで,機能が増えないようにしたことは,有効な対策であったと評価できる。

(2)基本設計工程以降

基本設計工程以降,工事領域の変更要求は断続的に発生した。予め定めておいた変更実施可否の基準により,変更の実施判断を客観的かつ速やかに行うことができた。コスト超過を抑えることができる基準を設定しておいたことで,コスト超過は当初予算からの削減した予備費0.2億円の中で収めることができた。

3.2 今後の改善点

今後の改善点は二つある。
一つ目は,プロジェクトのスコープを明確にして,事業部門のリーダー,メンバ,そしてシステムベンダーと認識合わせをすることだ。これにより,スコープ外の機能増加を防ぐことができる。
二つ目は,基本的なことではあるが,各工程の品質を確保することだ。今回,要件定義時の検討不足が,基本設計で判明し,設計変更が必要となりコスト超過につながった。今回はマネジメント予備費で何とか対応できたが,さらに変更が必要となった場合,マネジメント予備費を超過していたと想定される。今回の事例をドキュメント化し,今後のプロジェクトにおける教訓とする。

参考文献

  • 平成31年度 春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題

更新履歴

  • 2023年9月16日 新規作成
  • 2023年12月31日 論文案を掲載

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