情報システム開発プロジェクトにおける品質の評価,分析

プロジェクトマネージャ(PM)には,開発する情報システムの品質を適切に管理することが求められる。そのために,プロジェクトの目標や特徴を考慮して,開発工程ごとに設計書やプログラムなどの成果物の品質に対する評価指標,評価指標値の目標範囲などを定めて,成果物の品質を評価することが必要になる。

プロジェクト進行中は,定めた評価指標の実績値によって成果物の品質を評価する。特に,実績値が目標範囲を逸脱しているときは,その原因を分析して特定する必要がある。例えば,設計工程において,ある設計書のレビュー指摘密度が目標範囲を上回っているとき,指摘内容を調べると,要件との不整合に関する指摘事項が多かった。その原因を分析して,要件定義書の記述に難解な点があるという原因を特定した,などがある。また,特定した原因による他の成果物への波及の有無などの影響についても分析しておく必要がある。

PM は,分析して特定した原因や影響への対応策,及び同様の事象の再発を防ぐための改善策を立案する。また,対応策や改善策を実施する上で必要となるスケジュールや開発体制などの見直しを行うとともに,対応策や改善策の実施状況を監視することも必要である。

設問

あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア

あなたが携わった情報システム開発プロジェクトの目標や特徴,評価指標や評価指標値の目標範囲などを定めた工程のうち,実績値が目標範囲を逸脱した工程を挙げて,その工程で評価指標や評価指標値の目標範囲などをどのように定めたかについて,800 字以内で述べよ。

設問イ

設問アで述べた評価指標で,実績値が目標範囲をどのように逸脱し,その原因をどのように分析して,どのような原因を特定したか。また,影響をどのように分析したか。重要と考えた点を中心に,800 字以上 1,600 字以内で具体的に述べよ。

設問ウ

設問イで特定した原因や影響への対応策,同様の事象を防ぐための改善策,及びそれらの策を実施する上で必要となった見直し内容とそれらの策の実施状況の監視方法について,600 字以上 1,200 字以内で具体的に述べよ。

出題趣旨

プロジェクトマネージャ(PM)は,開発する情報システムの品質を適切に管理するために,プロジェクトの目標や特徴を考慮して,開発工程ごとに設計書やプログラムなどの成果物の品質に対する評価指標,評価指標値の目標範囲などを定めて成果物の品質を評価する必要がある。

本問は,評価指標の実績値が目標範囲を逸脱した工程において,逸脱の原因分析と原因の特定,影響分析の方法,また,特定した原因や影響への対応策,同様の事象の再発を防ぐための改善策,及びそれらの策の実施状況の監視方法について,具体的に論述することを求めている。論述を通じて,PM として有すべき品質の評価,分析に関する知識,経験,実践能力などを評価する。

解答案

章立てを考える

  1. プロジェクト特徴と評価指標や評価指標値の目標範囲
    • プロジェクトの目標や特徴
    • 評価指標や評価指標値の目標範囲
  2. 品質の評価,原因の分析,影響に関する分析
    • 品質の評価
    • 原因の分析と特定
    • 影響に関する分析
  3. 再発防止策
    • 原因と影響への対応策
    • 再発防止の改善策
    • 見直し内容とそれらの策の実施状況の監視方法

論文案

第1章 プロジェクトの特徴と評価指標や評価指標値の目標範囲

1.1 プロジェクトの目標や特徴

送配電事業を営むA社の事業部門で使用している設備保全システムの再構築プロジェクトについて述べる。私は事業部門のプロジェクトマネージャ(以下,PM)として,本プロジェクトに参画した。

設備保全システムのミドルウェアの保守期限が迫っており,本プロジェクト直後に,ミドルウェア更新プロジェクトが計画されている。よって,本プロジェクトは,2023年6月までに完了することが必達目標である。

また,本プロジェクトで設備保全システムを再構築する範囲が広いため,作業計画領域,巡視点検領域,工事領域の3つの領域に分かれている。それぞれの領域には,事業部門側のリーダとシステムベンダ側のリーダがいることが特徴である。

1.2 評価指標や評価指標値の目標範囲

評価指標や評価指標値の目標範囲などを定めた工程は,基本設計工程である。

評価指標は,事業部門のメンバによる基本設計書への指摘数とした。評価指標値の目標範囲は,本プロジェクトと同一のシステムベンダが過去に実施した設備保全システム改修を基に設定する。また,機能漏れが発生していないか,機能間の整合性が保たれているか,をポイントとして評価を行う。

機能毎の難易度や関連する機能を考慮した結果,基本設計書1ページ当たりの指摘数を4件±30%を評価指標値の目標範囲として設定した。

第2章 品質の評価,分析について

2.1 成果物の品質の評価

基本設計工程において,基本設計書のレビューが始まった時点から基本設計書の品質の評価を行なった。作業計画領域,工事領域の基本設計書は,評価指標値の目標範囲内であったが,巡視点検領域は目標範囲外となった。

目標範囲外となったのは,巡視記録を登録する画面の基本設計書で,1ページ当たりの指摘数は8件で,目標範囲を約3件超過していた。

2.2 原因の分析と特定

目標範囲外となった原因の分析と特定を行うため,巡視点検領域の事業部門側のリーダとシステムベンダ側のリーダにヒアリングを行った。

事業部門側のリーダは,基本設計書には,業務に必要な機能が漏れているため,指摘が多くなった。要件定義時には,既存の巡視システムの機能の概要を提示しており,それを参考に基本設計書を作成されることを期待している,とのことであった。

システムベンダ側のリーダは,要件定義時には既存の巡視システムの概要は説明されたが,詳細は説明されていない。詳細を把握しないまま基本設計書を作成したが,必要な機能が不足しており,多くの指摘を受けている,とのことであった。

巡視点検領域では,システムベンダ側の要件が理解が不足していることが原因と特定した。

2.3 影響に関する分析

巡視計画領域の基本設計書は約30本作成する予定である。システムベンダ側の要件理解が不足したまま,基本設計を進めたとしても品質を向上させることはできない。また,基本設計書を作成した後,事業部門のメンバから指摘があってから修正するのは,手戻りが多くなり,プロジェクトの必達目標にも影響を及ぼす可能性がある。

第3章 再発防止策

3.1 原因と影響への対応策

原因と影響への対応を行うには,システムベンダ側の対策が必要である。既存の巡視システムに携わったメンバをシステムベンダ側でアサインすることを先方のプロジェクトマネージャに打診したところ,対応してもらえることができた。

3.2 再発防止の改善策

同様の事象の再発を防ぐためには,基本設計以前の工程を改善する必要がある。具体的には,要件定義での品質の作り込みを実施しておけば,基本設計書での指摘が少なくなると考えられる。

基本設計書のベースとなる要件定義書において,評価指標や評価指標値の目標範囲を定めておく。これにより,事業部門とシステムベンダの双方が理解した要件が定義できると考える。

3.3 見直し内容とそれらの策の実施状況の監視方法

今後のプロジェクトでは,見直し内容とそれらの策の実施状況の監視を行うため,要件定義書,基本設計書のレビュー指摘件数を毎週の進捗会議で共有することにする。進捗会議には,事業部門とシステムベンダの双方のPM,領域リーダが参加しており,状況を早期に共有することができる。

システムの品質は,事業部門とシステムベンダの双方で作り上げていくという意識で,プロジェクトを推進していきたい。

参考文献

  • 平成27年度 春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅱ 問題 問2

更新履歴

  • 2023年9月22日 新規作成
  • 2023年12月31日 論文案を掲載

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