プロジェクトの管理

プロジェクトマネージャ試験のシラバス - 情報処理技術者試験における知識・技能の細目 - Ver. 6.0 の大項目「4 プロジェクトの管理」についての記述である。

4-1 プロジェクト作業の管理

プロジェクト作業のパフォーマンスを測定して内容を適切に把握しながら,計画の実行に支障を来す兆候や現象が存在しないかどうか確認し,異常が発見された場合又は予想された場合には,その原因を分析し改善する。

プロジェクトチームの構成員の自律的な貢献でパフォーマンスを改善するために,プロジェクト作業の管理の技術をチームの構成員に教育することも必要となる。

プロセス改善に影響する測定値及び傾向を評価するために,またパフォーマンスを改善するために,必要に応じてプロセスを変更する。これらの統合的な方法に基づいてプロジェクトの活動を完了する。

このプロセスをプロジェクトライフサイクル全体にわたり適用することによって,ステークホルダにプロジェクトパフォーマンスの正確な現状を説明する。

パフォーマンス測定の頻度は,プロジェクトの規模,複雑性,リスクに応じて設定する。

4-2 変更の管理

プロジェクト及び成果物に加えられる変更を管理し,変更を実施する前に,これらの変更要求の受入れ又は棄却を決定する。プロジェクトの環境の急激な変化や高い不確実性に起因する変更は前向きに捉えて,チームが変更に確実にかつ迅速に対応できるように,また変更の実施によってより高い価値を創成できるように管理する。

申請された変更要求に関して内容を確認し,変更登録簿に記録する。変更要求には,変更の概要,変更要求の理由,変更が与え得る影響や変更を実施しない場合の影響の査定などを含む。

変更は,あらかじめ定められた変更管理手順に従ってステークホルダと協議の上,変更することによる便益,変更の範囲,時間,コスト,品質,リスクを分析・評価し,影響の査定結果についてステークホルダの承認を得る。また,承認された変更に関連するプロジェクト計画及びプロジェクトマネジメント計画を変更する。さらに,必要なプロジェクト文書の更新を含めて,変更の実施のために全てのステークホルダにその決定を通知する。必要に応じてコストや作業期間の簡易な見積り方法を活用して,変更が生じた際にステークホルダに迅速な意思決定を促す。

変更要求が承認されると,プロジェクトマネージャは,変更に関わる全てのプロジェクトチームの構成員に対して変更の実施を指示し,変更の実施の状況を確認し,その結果を評価する。また,成果物への変更は,構成管理の手順によって適切に管理する。

4-3 スコープの管理

スコープの変更によって生じる,プロジェクトの目標の達成にプラスとなることがある潜在的リスクの影響を最大化し,マイナスとなることがある潜在的リスク(脅威)の影響を最小化して,スコープベースラインへの変更をマネジメントする。

承認されたスコープのベースラインと現在のスコープを比較してスコープを予測し,スコープへの脅威となる影響を避けるために全ての適切な変更要求を実行する。

変更が頻発する場合には,要求事項の収集,スコープの定義,WBS の作成,スコープの検証,スコープの管理が迅速に繰り返されるように対応する。この繰返しの過程で,要求事項の安定性を高めて要求事項の優先順位付けを見直す。

脅威がプロジェクトへの影響が少ないものであれば,スコープ内の問題として対応策を考え,そのために必要な作業量や資源を見積もり,影響度を見極めて問題を解決する。

脅威が計画変更を必要とするものであれば,定められた変更管理の手続に従って適切な変更要求をして,ステークホルダの承認を得てスコープの変更を実施する。

4-4 資源の管理

プロジェクトの要求事項を満たすように,プロジェクト作業の実施に必要な資源を確保して適切な方法で配分する。さらに,一定期間内で投入した資源を評価し,資源の見積りに対する投入状況,タイミング,質的及び量的な十分性を確認する。

資源の確保に関する制約や資源の投入状況によって資源の不足が発生することがある。プロジェクトの完了へ向けての見通しを立て,資源の不足による影響が見込まれる場合には,資源要求事項への変更要求を立案する。このような資源の不足を特定し,変更要求を基にコストや完了時期を再評価し,必要に応じて上層の管理者の承認を得て資源の再配分を行う。あらかじめ手順を確定しておくことで,このような資源の再配分を容易にできる。

4-5 プロジェクトチームのマネジメント

プロジェクトチームのパフォーマンスを最大限に引き上げ,パフォーマンスの評価結果をフィードバックし,課題を解決し,コミュニケーションを促し,プロジェクトを成功に導く。チームのパフォーマンスが最大化するようにチームのマネジメントの自律性を高める。このために,チームの構成員の専門スキルの向上に加えて,相互信頼に基づくチームワークのスキルの向上を促進する。また,顧客へのサービス提供の評価結果をプロジェクトチームのマネジメントのプロセスの改善につなげるようにする。

プロジェクトチームのマネジメントの結果,資源の要求事項を改訂することがある。

4-6 スケジュールの管理

一定期間内に投入したコストや資源,成果物の出来高と品質などを評価し,承認済みのスケジュールベースラインに対する現在の進捗の実績を確認する。スケジュールの差異を監視して適切な処置をとる。

プロジェクトの完了に向けての見通しを立て,遅れが生じている場合,完了期日を予測して要員や資源の追加,スケジュールの変更などの対策を立案する。完了のスケジュール予測は,過去の傾向及び現状の知識に基づいて定期的に作成し,必要に応じて更新する。システムを頻繁にリリースする場合は,顧客の満足度の評価状況に基づいて,今後開発が必要な要求事項から最終的なリリースまでの時間を判断して,完了のスケジュールを予測する。

対策を基にコストや完了時期を再評価し,必要に応じて上層の管理者の承認を得てスケジュールベースラインを変更する。

スケジュール・マネジメントの計画

当該マネジメント領域の他のプロセスのマネジメント方法や進め方を定義し文書化し,プロジェクトマネジメント計画書の補助計画書を作成する。

スケジュール・マネジメントの計画プロセスの主要なアウトプットは,スケジュール・マネジメント計画書である。

アクティビティの定義

WBS 作成プロセスによって作成された WBS の最下位層であるワークパッケージを,スケジュール管理に適した作業単位(アクティビティ)に,さらに細分化するプロセスである。また,アクティビティは,スケジュールの管理単位になるだけではなく,見積りの単位にもなる。

アクティビティの定義プロセスの主要なアウトプットはアクティビティ・リストである。

アクティビティの順序設定

各アクティビティ(作業タスク)の順序を考える。アクティビティの中には,設計書ができないとプログラミングが開始できないように,先行するアクティビティが終了しないと開始できないものもある。そういった依存関係(作業の前後関係)を明確にしていく。

アクティビティの順序設定プロセスの主要なアウトプットは,プロジェクト・スケジュール・ネットワーク図である。

アクティビティの所要期間の見積り

各アクティビティを完了するために必要な期間を見積もる。

プロジェクトの特徴に応じて,3 点見積り(最頻値,楽観値,悲観値)を使ったり,簡易的に類推見積りを使ったりする。

  • 最頻値:最も実現の可能性が高い値
  • 楽観値:最良のシナリオで進んだときの値
  • 悲観値:最悪のシナリオで進んだときの値

アクティビティ所要期間の見積りプロセスの主要なアウトプットは,所要期間の見積り,見積りの根拠である。

スケジュールの作成

これまでの作業に,組織要員計画作成の段階で考慮する資源平準化(山積み・山崩し)等を加味して,スケジュールを作成する。以後,これがタイムマネジメントのベースラインになり,進捗が順調なのか,遅れているのかの判断材料になる。

スケジュールの作成プロセスの主要なアウトプットは,スケジュール・ベースラインである。

スケジュールのコントロール

スケジュール・ベースラインと実績報告を比較して差異をチェックし,問題が発生していれば,原因を追究し改善を図る。

総合変更管理プロセスの一部として,スケジュールに対して発生した変更を実際に行う。

4-7 コストの管理

一定期間内に投入したコストをコストベースラインとの対比で大局的に,また活動別に詳細に分析する。コストの実績と活動の進捗,活動の予測完了期日,スコープ変更などから完了期日に見込まれるコストを予測し,適切な予防処置又は是正処置を実施する。

プロジェクト作業の開始後は,実コスト及び完成時見積コストなどのパフォーマンスデータとコストベースラインの差異の要因を分析する。差異は外的要因から起きることもあるが,原因にかかわらず,是正処置はコストベースラインの変更又は短期復旧計画の作成のいずれかである。

コストベースラインとの大きな差異が予想される場合,問題を把握し上層の管理者やステークホルダと協議して,必要に応じて予備費を使用するなど,予算を変更する。

コストベースラインの全ての変更は,変更の管理に従ってマネジメントする。変更が頻発し,予算の制約が厳しい場合には,スコープ及びスケジュールの変更は予算の制約内に収めるように,定められた手順に従って頻繁に調整する必要がある。

コスト・マネジメントの計画

コスト・マネジメント領域の他のプロセスのマネジメント方法や進め方を定義し文書化し,プロジェクトマネジメント計画書の補助計画書を作成する。

コスト・マネジメントの計画プロセスの主要なアウトプットは,コスト・マネジメント計画書である。

コストの見積り

スコープマネジメントのアウトプットであるスコープ・ベースライン(プロジェクト・スコープ記述書,WBS 他)に,要員計画などを加味してプロジェクト・コストを見積もる。

なお,このプロセスは,アクティビティ資源の見積りプロセスと強い関連性を持つ。

コストの見積りプロセスの主要なアウトプットは,コストの見積り,見積りの根拠である。

予算の設定

コストの見積りプロセスで策定された見積りとスケジュールを使って,コスト・ベースラインを作成する。

具体的には,どの費用が,いつ,どれくらい消費されるのかを時系列に配分していく。このコスト・ベースラインを元に ”コストのコントロール” が行われる。

予算の設定プロセスの主要なアウトプットは,コスト・ベースラインである。

コストのコントロール

コスト・ベースラインと実績報告を比較して差異をチェックし,問題が発生していれば,原因を追究し改善を図る。

統合変更管理プロセスに,必要に応じて変更要求を出してコストに対する変更をコントロールする。

4-8 リスクの管理

一定期間内におけるリスクへの対応の実施状況から,特定したリスクの追跡,新たなリスクの特定及び評価,コンティンジェンシ計画の発動条件の監視及びリスクへの対応の有効性を評価しながら,リスクへの対応の進捗をレビューする。

プロジェクトリスクは,プロジェクトライフサイクルを通じて定期的に,新たなリスクが出現したときに又はマイルストーンに達したときに評価する。

また,プロジェクトの進捗とともに必要に応じて実態に適合するように,リスクの特定とリスクの評価の結果,リスク発生に対する基本的な方針,リスクへの対応の内容を変更する。

システムを頻繁にリリースする場合には,リリースの都度,リスクへの対応の有効性も評価し,必要ならば以降のリリースに向けて改善を図る。さらに,プロジェクトチームのリスクに関わる認識の共有を促進して,リスクマネジメントのパフォーマンスを向上させるようにする。

4-9 品質管理の遂行

一定期間内における品質保証の遂行状況から,確定したプロジェクトの目標,プロジェクトの品質要求事項及び規格を満たすかどうかを明らかにし,未達成の場合に原因及び是正するための方法を特定する。このプロセスは,プロジェクトライフサイクル全体を通して実施する。

具体的には,成果物及びプロセスの品質を満たすことを監視し,確定済みのツール,手順及び技法を用いて欠陥を発見する。発見した欠陥について考えられる原因を分析し,予防処置及び変更要求を決定する。

品質管理によって,プロセスのパフォーマンス又は製品品質が不十分である原因が特定されることがあり,パフォーマンスの不適合を改善する必要があるときには,是正処置又は変更要求を行う。また,適切なプロジェクト組織の構成員に是正処置及び変更要求を伝達する。

継続して価値を創成するためには,品質のプロセスのパフォーマンスも継続的に向上させる必要がある。この場合には,プロセスのパフォーマンスを,顧客満足度などの価値を表す尺度に基づき定期的に測定して改善状況を評価する。

図 プロジェクト品質マネジメント

品質マネジメントの計画

当該マネジメント領域の他のプロセスのマネジメント方法や進め方を定義し文書化し,プロジェクトマネジメント計画書の補助計画書を作成する。

具体的には,顧客の要求する品質を確保するために計画を立てるプロセスで,品質尺度を明確にしたレビュー計画及びプロセス計画を立案する。

品質マネジメントの計画プロセスの主要なアウトプットは,品質マネジメント計画書,品質尺度である。

品質のマネジメント

品質マネジメント計画を実行に移すプロセス。

「品質のコントロール」プロセスのデータや結果をもとに,プロジェクトの全体的な品質に関する状況をステークホルダーに示す。

品質のマネジメントプロセスの主要なアウトプットは,品質報告書である。

品質のコントロール

顧客の要求する品質と実績報告(レビュー結果報告書やテスト結果報告書など)を比較して差異をチェックし,品質を検証する。

品質のコントロールプロセスの主要なアウトプットは,検証済みの成果物である。

4-10 調達の運営管理

プロジェクトの作業過程で,購入者と供給者との関係をマネジメントし,組織内のチームと外部調達要員が融和して期待する能力が発揮できるようする。

このプロセスでは,供給者のパフォーマンスの監視及びレビュー,定例進捗報告書の受理,並びに契約の種類,品質,遂行状況,適時性及び安全性を含むプロジェクトの全ての要求事項に適合させるための処置を行う。

供給者の契約の未履行に対して,双方協議の上,早期の問題解決に努める。契約内容の変更が発生した場合には,変更内容を明確にした上で契約変更を行う。

プロジェクトの環境の急激な変化や高い不確実性を伴う場合には,調達仕様書及び要求事項が変更に適応できるように契約内容に配慮が必要である。これによって契約全体を変更することなく,迅速に変更に対応できる。

4-11 コミュニケーションのマネジメント

ステークホルダのコミュニケーションに対する要求事項を確実に満たし,コミュニケーションの課題が発生したときには,それを解決する。プロジェクトチームの構成員とステークホルダの円滑なコミュニケーションを通じて,ステークホルダの理解と協力を深める。頻繁な変更がある場合には,これによってコミュニケーションのギャップが生まれないように,また変更に伴い発生したコミュニケーションの課題についても迅速に解決できるように対応する必要がある。

タイムリで正確で偏りのない情報を提供し,コミュニケーションの課題を解決して,未知又は未解決のステークホルダの課題又は誤解によって,プロジェクトが悪影響を受けるリスクを最小化する。

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