プロジェクトの立ち上げ
プロジェクトマネージャ試験のシラバス - 情報処理技術者試験における知識・技能の細目 - Ver. 6.0 の大項目「1 プロジェクトの立ち上げ」についての記述である。
1-1 情報システム又は組込みシステムの個別システム化計画の作成
プロジェクトは定められた目標を達成するために遂行する,開始日と終了日のある,独自性をもった,調整し管理する活動で構成されるプロセスの集合である。
組織は,いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)などの環境の変化に俊敏に適応し,多様化する顧客の要求事項を満たす能力を高めて,継続して価値を創成する必要がある。個別システム化計画においては,組織の価値創成の枠組み,プロジェクトの環境の変化や不確実性に対する組織のリスク許容度を明らかにする必要がある。
IT ストラテジスト(ST)がシステム開発プロジェクトの承認を得るために行う個別システム化計画の作成において,プロジェクトの目標,資源の利用,推進体制などの具体的な内容を示して計画の作成を支援する。
個別システム化計画には,ビジネスニーズとその経済性などの評価,便益を現実化する計画,プロジェクトによって生み出される主な成果物,マイルストーン,予算・コスト,必要な資源について概要レベルで記述する。また,プロジェクトを実行・管理する上での課題,リスク,影響を受けるか影響を与えるステークホルダ,プロジェクトに影響する外的要因を記述する。
プロジェクトの成果物を活用して顧客にサービスを提供する作業に関して,プロジェクトから成果物の引渡しを受けてシステムの運用を担当する運用組織,システムの保守を担当する保守組織との協働の形態を決定する。
個別システム化計画の作成におけるST とプロジェクトマネージャの役割分担は,プロジェクトを立ち上げる組織やプロジェクトの形態によって異なる。
1-2 個別システム化計画の承認
IT ストラテジスト(ST)が個別システム化計画を審査・承認する組織(以下,承認組織という)に提出し,個別システム化計画の妥当性の審査を経て承認を得ることを支援する。
計画の承認組織は,計画内容の組織の目標に対する充足性を評価した上で,組織にとっての予算の限度,組織が期待する完了時期,確保すべき品質水準,資源の利用可能量などを勘案し,必要に応じて計画内容に対して何らかの制約又は条件を加える可能性がある。ST が,設定された制約が大きな支障とならないかどうかを判断し,必要に応じて個別システム化計画の承認組織と調整するが,その際に支援する。
変化に俊敏に適応して価値を創成するためには,組織の枠にとらわれず活用できる全ての専門知識及びスキルを結集してプロジェクトを推進する必要がある。このようなプロジェクトの推進方法に関して承認組織の理解と合意を得る必要がある。
この個別システム化計画は,プロジェクトフェーズの立ち上げプロセス群及び計画プロセス群のプロセスに対する初期の要求事項となって,後続のプロセスで段階的に詳細化される。
個別システム化計画の承認組織の位置付けと権限は,プロジェクトを立ち上げる組織やプロジェクトの形態によって異なる。
1-3 プロジェクト憲章の作成
プロジェクト憲章は,プロジェクトの正式な承認,プロジェクトマネージャ(PM)の任命,初期の要求事項,プロジェクトの目標,期待する成果物及びプロジェクトの経済面について文書化したものである。
PM は,個別システム化計画の承認組織による承認を経て上層の管理者によって任命され,適切な責任と権限が明確にされる。
個別システム化計画を基に,ビジネスニーズ,プロジェクトで現実化する便益,プロジェクトの背景と目的,プロジェクトで達成する目標,解決する問題,PM 及びプロジェクトチームが果たすべき役割と任務,プロジェクト作業を管理する方針やルールを明確にする。また,プロジェクトの範囲,主要なステークホルダ,プロジェクトの制約と前提,概略のスケジュールと予算を明確にする。
プロジェクト憲章の作成におけるPM の役割は,プロジェクトを立ち上げる組織やプロジェクトの形態によって異なる。確実に便益を現実化するために,PM がプロジェクト憲章の作成に積極的に参加する場合がある。
1-4 ステークホルダの特定
プロジェクト憲章やプロジェクトの組織図に基づき,プロジェクトから影響を受けるかプロジェクトに影響を与える個人,集団又は組織を明らかにし,その利害及び関係に関連する情報をステークホルダ登録簿として文書化する。
顧客の要求事項を確実にかつ迅速に満たすためには,組織の内部・外部にかかわらず共創関係を構築して,積極的な参加と関与を求めるべきステークホルダを特定する必要がある。
1-5 プロジェクトチームの編成
プロジェクトの完遂に必要な人的資源を得るために,プロジェクトチームの構成員の選定を全面的に管理するか又は選定に参加する。その際,プロジェクトの成果物を活用して顧客にサービスを提供する作業を考慮し,運用組織及び保守組織との協働の形態を踏まえた構成員を選定する。
いつ,どのようにプロジェクトチームの構成員を得て,いつ,どのように構成員をプロジェクトチームから解放するのかを決定する。
プロジェクトチームの編成においては,専門知識及びスキル,個性の相違,チームワークによるパフォーマンス向上の効果などの要因を考慮する必要がある。必要な専門知識及びスキルを結集するために,組織の枠にとらわれない組織横断チームによる活動が必要となる。組織内で人的資源が得られないときは,追加の構成員を雇うか,作業を別の組織に委託することを考慮する。したがって,組織横断チームには顧客又は外部の組織の要員が加わることがある。また,システム開発の方法に適合したプロジェクトチームの構成員数を設定する。